2024.01.10
千葉県2024.01.10
太刀魚の刺身を新鮮なままに。
日本一の水揚げを誇る「銚子」から世界へ!〈前編〉
一政水産株式会社

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海で獲れる魚が変わりつつある。全国的なニュースで取り上げられるように、サンマやスルメイカの不漁は数年間続いている。

12年連続で水揚げ量日本一を誇る千葉県「銚子港」でも例外ではない。サンマの不漁が続き、サバの漁獲量は10年前と比較すると2/3の量となっている。その代わりにイワシは10年前と比較して3倍以上獲れるようになり、さらに西日本の海を泳ぐ太刀魚が市場に並ぶようになった。

漁獲量が大きく変わると、売上も大きく変動する。銚子で水産物の仕入・加工・販売を手がける「一政水産」は、その荒波を乗り越えるために、冷凍技術を活用した新しい商品開発に乗り出した。

どのような商品なのだろうか。取締役の北川まゆみさんに話をうかがった。

獲れたてのおいしさを閉じ込める冷凍技術

銚子の沖合は、南下する冷たい親潮と北上する暖かい黒潮がぶつかり、多くのプランクトンが生みだされることで、年中脂ののった魚が生息する、日本屈指の豊かな海だ。水揚げされる魚はサバ、マイワシ、サンマ、カツオ、マグロ、キンメダイやヒラメ、カレイなど約200種類に及ぶ。

1970創業の一政水産は、これらの魚を厳選して仕入れ、こだわりの製法で加工し、販売し続けてきた。さらに、豊かな漁場で獲れる魚を新鮮な状態で全国に届けるために、今回、特殊凍結庫「Xフリーザー」を導入したという。

「周りの企業がやっていないような新しい取り組みをはじめようと思い、Xフリーザーを導入しました。それを活用した最初のプロジェクトが、2022年に開発したつりきんめの冷凍刺身「日本一の金目鯛の寿司種」です。効率的に加工できるように作業場を作り替えているので、これからも冷凍刺身のラインナップを増やしていきたいです」

つりきんめの刺身は、柵の状態で出荷していることも高く評価されたという。

「お寿司屋さんにも卸しているのですが、『一度冷凍されたとは思えないほど新鮮で驚いた』『すぐに調理できて使いやすい』などの喜びの声をいただいています」

2023年には、つりきんめで得られたノウハウを活かし、冷凍太刀魚のフィーレを開発。三枚おろしにした柵を特殊凍結庫「Xフリーザー」で凍結し、解凍しても獲れたての鮮度を味わえる刺身を生み出した。

「一般的な冷凍庫で魚を冷凍すると、解凍した時に、旨味成分が水分となって出てしまいます。これをドリップと呼んでいるのですが、Xフリーザーで冷凍した場合は解凍してもこのドリップが出ないんです」

生魚を凍らせると、内部に硬い氷結晶が発生し、細胞膜を破壊する。解凍時には、この氷結晶が溶けることにより、細胞内の成分と一緒に旨みが外に漏れてしまったり、細胞内に空洞ができたりするため、刺身の鮮度が低下するそうだ。

しかし、Xフリーザーで急速冷凍すると、魚全体をムラなく冷却・冷凍し、細胞内の氷結晶が細かくなるため、細胞膜は破壊されない。その結果、冷凍時に獲れたてのおいしさを閉じ込めることができ、解凍しても新鮮なまま素材の味を楽しめるのだ。

気候変動に対応するために太刀魚を商品化

「はじめてXフリーザーを使ったとき、社員たちと試食をしたのですが、その新鮮さに驚きました。販売後も『普段食べている生鮮のお刺身と味が変わらない!』という喜びの声をいただいたため、今回も自信を持って太刀魚の刺身を商品にしたんです。気候変動によって太刀魚が銚子でも獲れるようになったことと、白身魚らしいあっさりとした食べやすさで、色々な料理のアレンジにも活用できそうだと思い、刺身にする魚に選びました」

スーパーで販売される刺身の賞味期限は最大で約2〜3日だが、Xフリーザーで凍結した場合は、約1年以上も持つそうだ。獲れすぎた魚を廃棄せずに保管できるため、販売機会のロスを防ぐことにもつながる。

また、仕入れ、加工、販売まで一貫して行っている一政水産では、船を指定して太刀魚を仕入れている。

「1キロ以上の立派な魚体を中心に、傷が少なく、身の厚いものを厳選しています。太刀魚の刺身は弾力のある食感と脂の甘みが特徴です。Xフリーザーで凍結することで、獲れたての味をそのまま閉じ込めることができました。ぜひ全国の方にもこの新鮮な刺身を味わっていただきたいです」

文・中たんぺい

後編へつづく