2023.11.29
宮城県2023.11.29
焼き立てが一番!アウトドアで楽しむ
「手焼き笹かまぼこ」〈前編〉
有限会社粟野蒲鉾店

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粟野蒲鉾店

宮城県はかまぼこの消費量が23年連続で日本一。豊かな漁場を有するこの地では、先人たちが魚を美味しく食べるために知恵を働かせ、この地ならではの食文化をつくりあげてきた。中でも代表的なのは、宮城名物「笹かまぼこ」だ。

笹の葉型の焼きかまぼこは、初代仙台藩主伊達政宗の家紋「竹の雀」に描かれている笹の葉にちなんでその名がついたと言われている。

宮城県石巻市で97年続く「粟野蒲鉾店」のつくる笹かまぼこは、地元の人たちに長年愛されてきた逸品だ。そして今回開発しているのが、アウトドアシーンに合う「手焼き笹かまぼこ」だという。

いったいどんな商品なのだろう。開発を担当した専務取締役・粟野風人(あわのかずと)さんに商品開発のきっかけや魅力を伺った。

津波で全壊。店を畳もうと思っていた

昭和元年創業の「粟野蒲鉾店」は、長年地元の人たちに親しまれてきた笹かまぼこ専門店。地元、石巻では「粟野のかまぼこは午後にはない」と言われ、作ったその日にすぐに売り切れてしまうほどだ。

しかし、2011年3月。東日本大震災による津波は、本店兼工場も原料倉庫も跡形もなく飲み混んだ。

粟野蒲鉾店

「震災後、波が引いてから店を見に行ったのですが、店舗の一階が柱だけ残っているような状態でした。停電で原料はすべて腐敗し、機械もすべて故障したため、一切の生産を行うことができなくなってしまいました」

店内に入り込んだ大量の泥や瓦礫、機械などを片付ける労力と時間を考えると、途方に暮れた。当時は、このまま店を畳もうと考えていたそうだ。

再開を決めたのは、お客さんたちからの電話だ。震災から5ヶ月後、店の固定電話が復旧すると、鳴りやまないぐらいにエールが寄せられたのだ。

「お客様から安否を心配して電話をいただいたんです。『これからも続けてほしい』、『また粟野さんの笹かまを食べられることを楽しみしています』といったお声をたくさんいただきました。うれしくて涙が出ましたね。私たちの作るかまぼこは、お客様にとって大切な思い出の味なのだと実感し、店を再建していくことを決意できたんです」

友人の一言から新商品を考案

復興のために奮闘しつつ、粟野さんは、地元に再び観光客を呼び込もうと新たな挑戦も行ってきた。

例えば、石巻市出身、故石ノ森章太郎をご神体とする「萬画神社」とのコラボ商品「おみくじかまぼホ(こ)」。観光客にマンガの街・石巻を体験してもらいながら、かまぼこの魅力も伝えていく狙いで、おみくじ付きのかまぼこを開発した。

伝統の笹かまぼこの枠にハマらない挑戦は、今回の新商品にも生かされている。

「友人がコロナ渦でソロキャンプをはじめたのですが、『かまぼこってアウトドア向けの商品はないの?』と聞かれたんです。確かに今までアウトドア向きの商品はなかったなと思い、バーベキューでも使える手焼きの笹かまぼこを思いつきました」

粟野蒲鉾店

粟野さんは以前から、店がおいしいと感じたものを一方的に提供するのではなく、お客さんの意見を反映したものづくりがしたいと考えているそうだ。そこで、まずはその友人を満足させる商品を作ってみようと動き出した。

ここからアウトドアシーンに合う、新しい笹かまぼこの開発がはじまった。

焼きたての笹かまぼこを食べてほしい

粟野さんは、いつでもどこでも焼きたての笹かまぼこを食べてほしいと「手焼き笹かまぼこ」を考案。

本来、笹かまぼこは練り上がった魚のすり身を成形し、香ばしい焼き色がつくまで、じっくり焼き上げてつくられるそうだ。しかし、手焼き笹かまぼこは、焼きの工程を自身で楽しんでもらうために蒸し上げてつくられる。

「でも、『焼く』と『蒸す』とでは笹かまぼこの食感がまったく違ってしまうんですよね。焼くことで笹かまぼこ特有のプリプリとした食感になるんです。蒸すと、どうしても固めの食感になってしまうので、蒸し方や温度管理など、何度も試行錯誤を重ねました」

粟野蒲鉾店

手焼き笹かまぼこは、調味料をなるべく使わず、塩分も抑え、魚の味がダイレクトに伝わるよう、さっぱりとした弾力に仕上げた。

「『週末にあえて手間ひまかけて食べる』ことをコンセプトに開発しました。笹かまぼこって焼き立てが一番おいしいんですよ。キャンプをしながら、家族と語らいながら、自分たちで焼いて楽しんで、アツアツのかまぼこを頬張ってほしいです」

文・佐々木僚 写真・ 株式会社ル・プロジェ

後編へつづく