日常的にかまぼこを楽しんでほしい
新しい店づくりの改革を進めるなかで誕生したのが、「常磐産カナガシラ入りシーフードケーキ」だ。ギフトとして贈答品に使われることの多いかまぼこだが、「もっと日常的にかまぼこを楽しんでもらいたい」という想いから商品が生まれたという。
ベースとなっているのは、従来の商品であるスティックタイプの「シーフードケーキ」だ。食の安全・安心にこだわり、防腐剤や合成着色料、甘味料は一切使用していない。さらに、新鮮な白身魚のすり身を練り上げる水はバイオセラミックを利用し、ろ過処理で限りなく自然に近い水に活性化させて使用しているという。
また、「焼き抜き製法」にもこだわる。従来の「蒸す」製法から、ガスと遠赤外線を併用した独自の製法で「焼く」ことで、魚の旨味と食感を最大限に引き出しぷりっとした歯応えになる。プレーンでも十分においしいかまぼこに、カニやチーズ、貝柱などの素材を贅沢に加えることで、見た目にもおいしい「シーフードケーキ」が完成する。
未来につながるかまぼこ作りを目指して
おいしいかまぼこを作る一方で、食品ロスの課題にも向き合った。かまぼこは生鮮食品のため、冷蔵保存が必要な上、賞味期限が迫ると廃棄は避けられない。そこで、新商品は完成後に密封・加熱といったレトルトパウチ加工を行い、常温保存を可能にした。賞味期限も約半年間持つため、栄養食として保存にも重宝しそうだ。
さらに、今回の商品でもっともこだわったのは「未利用魚」の活用だ。未利用魚とはサイズが規格外だったり、一般に知られていないことで買われないといった理由で市場にあまり出ない魚のことを指す。未利用魚を商品にすることで、限りある海の資源を最大限に利用することができると閃いた遠藤さんは、常磐産の「カナガシラ」に目をつけた。
常磐沖の底引き漁船によって漁獲されるカナガシラは、白身のうま味が強く、刺身にしても煮魚にしても十分おいしい魚だが、頭が硬い骨で覆われているため加工しにくく、食べられる部分が少ないためほとんどが廃棄されていたという。
「海の豊かさを守り、次世代へつなげていくためにも、食品ロスや資源の有効活用に取り組みたいと思い、今回の商品を企画しました。未利用魚を上手に食べることで、持続可能な食の未来につながるとともに、かまぼこをもっと身近に感じてもらえたらうれしいですね」
かまぼこを通して人とのつながりを大切にしたい
かつては北洋サケ・マス船も含む数多くの遠洋・近海漁の船が行き交い、全国から働き手が集まったいわき市だが、国内漁獲高は昭和50年代をピークに右肩下がりになり、かまぼこ工場の多くは姿を消した。震災前は日本一の生産量を誇っていた「いわきのかまぼこ」だが、現在はその多くが失われている。さらに、食生活の変化で年々魚を食べない子どもが増え、かまぼこ業を取り巻く環境は厳しさを増すばかりだ。
「それでも、お客さまからの『今年もかまぼこを贈られてくるのを楽しみに待っているよ』という言葉が励みになって、これからもかまぼこ文化を守り続けようと力が出るんです」と、遠藤さんは笑顔を見せる。
「かまぼこづくりの根底にあるのが、古くから続く贈り物の文化です。人が人を思う気持ちが、かまぼこを育ててきたんですよね。だからこそわたしたちは、海の資源を守りつなげ、かまぼこづくりを通して、人と人とのつながりを大切にしていきたいと考えているんです」
かまぼこによって受け継がれてきた文化を守り、つなげていこうと奮闘する遠藤さんの眼差しは、ずっと先の未来を見ているようだ。取材の帰りに、いただいた試作品を食べてみると、懐かしい海の香りと優しい旨味がやさしく口の中で広がり、ほどけるようだった。
文・荒川涼子 写真・吉田和誠