
「魚は、タンパク質やDHAが豊富で成長期の体づくりに欠かせません。魚が苦手という子どもでも、かまぼこなら手軽に食べられます。おやつにもなるし、天ぷらにすれば食卓の主役にもなるんですよ。いろいろな食べ方を知っていただき、もっとかまぼこに親しんでほしいんです」
こう話すのは、創作かまぼこを主軸に商品を製造・販売する「株式会社かねまん本舗」の2代目遠藤貴司さん。創業52年を迎えるかねまん本舗では、かまぼこの魅力を未来につなげていこうと、常温保管ができるスティックサイズのかまぼこ「常磐産カナガシラ入りシーフードケーキ」を開発中だという。
「カナガシラ」「シーフードケーキ」と聞き慣れない言葉が並ぶが、どのような商品なのだろう。練製品の生産が盛んな福島県いわき市を訪れた。
デザートのように美しい「シーフードケーキ」

いわき市郊外の沿岸部。遠浅の美しい海岸線が見られる薄磯海水浴場から車で5分ほど北上すると「かねまん本舗」の大きな看板が見えてくる。工場が併設される直売店は約100坪と広い。大型バスで観光に訪れるお客さんも受け入れ可能なキャパシティーを持ち、工場産直型の店舗ではガラス越しに工場見学もできる。
店内に入るとショーケースには、カニやホタテ、タラコ……と海産物を贅沢に使ったバラエティ豊かな創作かまぼこが並び、ワクワクを誘う。かねまん本舗では、創作かまぼこの総称を「シーフードケーキ」と呼ぶ。一つひとつの商品が色彩豊かでデザートのように美しいことから、この名まえが付けられたのだそうだ。

「先代が目指してきたのが『見て楽しい、食べておいしい、かまぼこ』です。創業以来、贈る人も、贈られた人もうれしくなるような、従来品にとらわれない自由な発想の商品づくりを心がけてきました」
いわき市の名産となるかまぼこを目指して

かねまん本舗は遠藤さんの父・遠藤邦雄さんが自宅わきにあった加工場を使って1972年に創業した。当時は「つくればつくるほど売れた時代」で、近所にはたくさんのかまぼこ工場が建ち、全国へ出荷されていた。
近隣のかまぼこ工場の多くが年末商戦を意識した定番の紅白かまぼこや伊達巻き、厚揚げといった商品を主力とするなか、早い段階からかねまん本舗ではいわき市を代表するオリジナルの名産品をつくろうと考えてきた。東京・いわき間を結ぶ常磐自動車道が開通した1987 年には、現在の場所に工場を移転し、直売店をオープンさせた。
かつて近隣にはたくさんのかまぼこ工場が並んでいたが、2011年の東日本大震災で被災し廃業に追い込まれた会社も多い。
かねまん本舗も津波による浸水被害を受けたものの、スタッフは全員無事で、かまぼこの製造に必要な機械や設備にも大きな損害はなかった。震災後は避難所にかまぼこを差し入れたり、被災者に炊き出しを行うなどのサポートに回ったが、今後店の運営をどうするかは白紙のままだったという。
観光業の打撃から再起をかけた商品づくり

「地域全体の被災状況があまりにも深刻で、このまま廃業するか営業を続けるか、創業以来の大きな分岐点に立たされました」と遠藤さんは振り返る。
再起を決めたのは近隣に住む恩人から、「せっかく工場が残ったのに、あきらめるな」とかけられた言葉だった。震災から1カ月後、まだ周辺の道路は陥没し、がれきも残っているという環境のなか「地域の復興の一助になりたい」と営業再開に踏み切った。
震災後は原発事故の風評被害も重なり、いわき市の観光業は大きく落ち込んだ。観光客をメインに商品づくりをしていたかねまん本舗は大打撃を受けたが、各方面からの応援もあって少しずつ回復できたという。しかし、2020年になり今度は新型コロナウイルスが流行。観光業は再び苦境に追いやられることになった。
「苦境に立たされて経営を根本から見直すことにしました。これまでは比較的年齢層の高い観光客をメインに商品づくりをしてきましたが、地域や海の環境にも目を向け、子育て世帯にもアプローチしたいと考えるようになりました。そこで、もっと未来につながるような経営をしていこうと舵を切ったんです」
文・荒川涼子 写真・吉田和誠