ふっくらと柔らかい兼多水産のホッケ
礼文島で採れる最高級品質の真ホッケ。そのおいしさを十分に引き出せるよう、製法にもこだわっている。
「旬のものほど身が柔らかく、脂がのっているため身崩れしてしまいます。そうすると焼いたときにどうしてもパサついてしまうんです。そうならないよう、素材の状態を見ながら塩分量や乾燥時間を調節しています」
入荷した真ホッケは手作業で丁寧に下処理したあと、関根社長自らテイスティングし、長年の干物づくりで培った経験と勘で塩分量と乾燥時間を決める。時間をかけて冷風乾燥させることで旨味を閉じ込め、外側はパリッと中はジューシーなおいしい干物が完成する。
そして、完成した干物は急速冷凍機で一気に冷凍処理を施す。こうすることで、細胞の内部損傷が少なくすみ、解凍後にうま味成分が「ドリップ」として流出してしまうのを防ぐことができるという。こだわりの製法により鮮度が保たれ、焼いたときに身がふっくらと柔らかいのが兼多水産のホッケの特徴なのだ。
フードロス削減に向けて
これまでは製造した干物の賞味期限は冷凍状態でおよそ半年間あったが、商品は未包装のまま取引先に卸しており、EC販売には不向きだった。通常、スーパーでは売り場に並ぶのと同時にカウントダウンがはじまり、解凍後は4日ほどで賞味期限が切れてしまう。そして売れ残った商品はすべて廃棄処分になる。古くからの知恵が詰まった保存食といえど、生食材のため食料廃棄の問題には常に頭を悩ませていた。
「フードロスや廃棄ロス問題にとどまらず、近年は『災害への備え』という観点からも冷凍技術や真空パックの需要が伸びています。コロナ禍以降、こうした消費者ニーズはさらに高まっており、今回は真空パックするための機材を揃えて初のEC販売にチャレンジしました」
新商品では新たに導入した機材を使い、真ホッケの干物を1枚ずつ真空パック包装することで、冷凍での賞味期限を従来の約60日から90日まで伸ばすことに成功した。また、工場から消費者に直接商品を発送するため、発送直前まで品質を落とさずに商品を管理できる。
「個包装することで商品管理がしやすくなるというメリットもあります。この商品でEC販売に参入し、今後は他の干物商品にも拡げていきたいと考えています」
「また食べたい」で伝統を未来へつないでいく
兼多水産のある大洗町は日本の太平洋沿岸のちょうど真ん中に位置する。古くから海路の中継地として利用され、首都圏にアクセスしやすい「地の利」も生かしながら、さまざまな食品加工の技術が発展してきた。
中でも魚の干物は縄文時代から続くとされる日本の伝統食であり、食卓に欠かせない食材だったが、東日本大震災の発生後しばらくは風評被害に苦しめられた。さらに近年は若い世代の間で「魚離れ」「干物離れ」が顕著で、町内に80軒近くあった水産加工会社は現在20軒あまりに減ってしまっている。
厳しい状況下に置かれるなか、関根社長の支えになっているのが、同社の商品を地域ブランドとして売ってくれるスーパーの売り場担当者や直接工場に買いに来る常連客一人ひとりの存在だという。「おいしかった」「また買いに来たよ」の声に励まされ、前を向けていると感じている。
「弊社はごく小さな会社です。だからこそ、自分が食べて確実に『良い』と思える商品を作ることを大切にしています。今回の商品は真ホッケを本当に好きなお客様に食べてもらいたいですね。そして『また兼多水産の真ホッケを食べたい』と思っていただけたらうれしいです」
日本最北部にある礼文島から届く特別なホッケを全国へ。時代と共に進化する加工技術で魚食文化の伝統を未来につないでいく。
文・荒川涼子 写真・中村靖治