2023.11.24
千葉県2023.11.24
鮮度そのまま瞬間凍結で家庭に直送!
仲買人が厳選する銚子の「つりきんめ」〈後編〉
有限会社カネ八商店

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「目新しい視点」で商品開発

キンメダイは、刺身や寿司ネタとしてよく扱われる魚だ。けれど、カネ八商店では、新しい視点で商品開発をしよう」と家庭に目を向けた。

「銚子の人たちにとってキンメダイのもっともスタンダードな食べ方は『煮付け』なんですよね。そこで、家庭で簡単に煮魚を作れるよう筒切りにした切り身を考案しました」

新商品の「キンメダイの切り身」は、魚を骨ごと輪切りにし、1パックに3ブロック、頭と尻尾以外、キンメダイ1匹分の切り身が丸々入っている。

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1パックあたり3ブロック入っている。煮魚にするとだいたい2〜3人前の量だそう。

「キンメダイを食べてみたいと思ってくださる全国の方に届けられたらと思っています。銚子は醤油の町でもあるので、ゆくゆくは煮魚用のタレを付けたセットも販売したいです」と啓太さん。

お店で食べるキンメダイの煮付けは姿煮が一般的だが、切り身であれば家族でも分けやすい。また、骨付きの切り身なので煮崩れしにくく、手軽に調理可能だ。

「祖父は煮付けを食べ終わった後、残ったタレと骨にお湯をかけて、蕎麦湯やあら汁のようにして飲んでいます」と地元の人ならではの食べ方も教えてくれた。シンプルな加工にとどめているからこそ、家庭によってさまざまな楽しみ方ができるのも魅力だ。

仲買人がEC販売に挑むきっかけ

「父や兄はずっと漁業の現場で働いてきて、その道のプロではあるもののインターネット関係には疎かったんです。ちょうど私が銚子に戻ってくるタイミングで、『今の時代に合った取り組みもしてみない?』とネット販売の提案をしました」

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昨年まで東京のロボット関連企業に勤めていた啓太さん。サーフィンが趣味で、東京に住んでいたころも週末になるとよく銚子を訪れていたそう。

さらに、奥様の出身地が銚子だったことや、さまざまなタイミングが重なって周囲のあと押しもあり、2022年12月に銚子へUターンをした。

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「写真や動画を撮影することも好きだったので、前職ではそういったスキルを学ぶこともできたのでよかったです」と話す啓太さん。

前職で写真や動画撮影のスキルを培ってきた啓太さんは、発信にも力を入れているのだそう。

10月に行われた「銚子産業まつり」では、マグロの解体ショーやキンメダイの味噌汁の炊き出しの様子を動画にまとめ、「銚水連(銚子水産流通業組合連合会)」のInstagramでも発信。全世界の人たちに鮮度バツグンの銚子の魚を食べてほしいと、仲買人の枠からはみ出した活動を積極的に行っている。 

銚子の内と外をつなぐハブとなる存在

実は啓太さんは、銚子市の地域おこし協力隊としても活動している。

地域おこし協力隊とは、人口減少や高齢化などが進む地域に移住して、地域ブランド開発やPRなど、地域活性化のための活動をしながら、定住・定着をはかる取り組みだ。任期は3年で、活動内容や条件、待遇は、自治体によってさまざま。

啓太さんは、銚子を活性化するために、3つの活動を担っている。1つ目はふるさと納税の推進、2つ目はSNSでの写真や動画の発信、そして3つ目がイベントの企画や運営だ。

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「協力隊のメンバーの中でも銚子出身者は私だけで、ほかのメンバーは移住者です。はじめての土地だけに、不安に思っている人も多いので、知人を紹介するなど、人と人をつなげる役目を行っています。一方で、もちろん私一人ではできないので、協力隊のメンバーと協力してこのまちも漁業も盛り上げていきたいです」

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銚子は仲買業者だけでも100業者ほどあり、仲買人同士で情報交換をすることも多いそうだ。ライバルというより、助け合い共存していこうという雰囲気だという。

「漁業の現場に携わってみて思うのは、もっと銚子の外の空気を取り入れたら面白いんじゃないかということです。作業効率を上げれば、まだまだできることは多いのではと感じています。今、銚子に住む20代、30代は活気があります。『水産業はかっこいい!』と思ってもらえるよう、自分たちが先頭に立って取り組んでいきたいです」と啓太さん。

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銚子は今、新たな取り組みの種がどんどん蒔かれている時期だ。

伝統的な漁業文化と、インターネットや写真・動画を活用した取り組み。地元の人の目線と市外から移住してきた人の目線。相反するもの同士をつなぎ合わせる、ハブとなる啓太さんの存在は大きいのではと感じる。

先人のつくり上げてきた文化に敬意を払い、守るべきところは守りつつ、新たな取り組みを推し進めていく。目指すべき姿への第一歩として、今事業における加工商品のECサイトでの販売が位置づけられているのではないのだろうか。

これからのカネ八商店の未来、銚子の未来から目が離せない。

文・写真:寺田さおり(写真2枚目 事業者提供)