2024.12.20
福島県2024.12.20
マグロ卸しのプロが送る!
「山吉のマグロ丼」〈後編〉
株式会社山吉

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目利きが見極める、冷凍マグロの最上解

2001年の創業以来、“生のマグロ”にこだわってきた株式会社山吉。鮮度も質もいい生マグロを提供し続けてきた仲卸業者が今、「冷凍」という新しい分野への挑戦に踏み出している。

構想からおよそ2年、山吉が開発を進めてきた「山吉のマグロ丼」は、現在販売に向けて最終段階に入っている。

創業初となる冷凍商品開発への苦労を、隼人さんはこう語る。

「ノウハウのない私たちが一番苦労した点は、やはり“冷凍”と“解凍”のふたつの加工ですね。マグロの扱いは本当に繊細で、少しでもタイミングを逃すと、色味やうま味を逃してしまいます。なるべく“生の良さ”を損なわず冷凍し、さらにおいしく解凍するための技術開発には、時間と労力をかけました」

冷凍開発への想いを語る、二代目社長の山吉隼人さん

鉄分の多いマグロは酸化しやすい。適度な酸素量なら赤身の発色が促され、アミノ酸が生じて旨みが引き出される。しかし、触れる酸素が一定量を超えてしまうと、今度は逆に退色を招いて色味がくすみ、アミノ酸が過剰に活性化することで味にも“えぐみ”が出るという。

「これらの変化のポイントを見極めるのは、現段階のAI技術をもってしても難しいんです。マグロの色味や旨み成分は、まだ数値化することができないんですね。だからこそ山吉のような、長年の勘によって磨かれた目利きの存在が欠かせないと私は考えています」

市場で働く山吉の社員。素早く、適切なタイミングでマグロを切り分ける。

解凍に関してはさらに研究を重ねた。冷凍処理と違い、解凍のクオリティーは家庭環境によって大きく左右されるからだ。解凍時の室温、時間、季節などのあらゆるシチュエーションを想定し、なるべくベストな状態で召し上がってもらうための要として、山吉では“素材選び”にこだわるという結論に達した。獲れる時期や加工のタイミングを見計らい、最上のマグロを選ぶことで、冷凍にも解凍にも耐えうる“生のようにおいしい”冷凍マグロ丼を届けようというのである。

これからの魚食のために、“本物の味”を届ける

大型スーパーや大手チェーンの寿司店の需要の高まりにより、より安価なマグロが市場で出回るようになってきた。そんな逆風とも言える状況の中でも、山吉はあくまで“本物の味”にこだわっている。

「環境によって品質が左右されやすいマグロだからこそ、食べてみればその違いがはっきりと分かってしまう。安価なものが好まれる現代のニーズもよく分かりますが、やっぱり私たちは鮮魚卸業者として、消費者の皆さんに“本物のマグロの味”を届けたい。特に次世代を担う子どもたちには、おいしいマグロの味を知って育ってもらいたいと思うんです」

山吉では本業のほか、食育にも取り組んでいる。保育園でのマグロの解体ショーや、地元小学校の市場見学の受け入れを毎年行っているそうだ。漁業や仲卸業の仕事を知ってもらうことはもちろん、魚という“命”をいただくということを知ってもらうためにも、こういった食育活動は大切だと考えている。

創業24年となる山吉の経営理念でには、魚を通しての地域貢献がうたわれている

「マグロを扱える業者や人材って、全国でも少ないんです。そんな中、山吉ではマグロを主力として、多くの方に求められる企業に育ってきた。私もこの業界に20年身を置いて解体などをやらせてもらっていますが、こういった貴重な仕事に携わることができていることをありがたいと思うと同時に、誇りにも思っているんです。大げさかもしれませんが、日本食の伝統をつないでいるなという自負があるんですよ」

“本物の味”にこだわってきた山吉だからこそ届けられる、生にも負けないクオリティの「山吉のマグロ丼」。彼らの新しい挑戦と味が、最新技術と他社との協業を経て私たちの食卓へ、そして未来の魚食文化への財産としてつながれていくことを願ってやまない。

文・佐藤 美郷 写真・太田 亜寿沙