「皆さんに本当のタラのおいしさを知っていただきたいんです」
取材の日。開口一番にまっすぐな瞳で、株式会社ヤママサの三嶋ひよりさんはこう話してくれた。
「タラは低カロリーで高たんぱく質、ふわっとした身でクセがないのでどんな料理にも合う魚なんです。一方で、品質管理がすごく難しい魚なので、鮮度の悪いタラを口にしてしまって苦手だと感じてしまう人もいるようで……。それがすごく悔しいんです」
だからこそ「タラ」を専門に扱うヤママサでは、徹底した鮮度管理とていねいな加工でタラ商品を世に送り出してきた。そんな、タラに並々ならぬ想いを持つヤママサが今回開発した商品が、レンジで温めるだけで手軽に食べられる1人用の「国産たらちり小鍋」だ。
おいしくて栄養満点、タイパ抜群の鍋は忙しい現代人の心強い存在になってくれそうだ。開発を担当した三嶋さんに、商品にかけるこだわりや想いを伺った。
タラの本当のおいしさを届けるために
日本三景の松島を望み、全国でも有数のマグロの水揚げ量を誇る塩釜港。この地で1950年に創業した株式会社ヤママサは、「真ダラ」を専門にチルド品や冷凍品を加工・販売している会社だ。
ヤママサが扱うのは、太平洋最北部のベーリング海で育まれた天然の真ダラ。そのタラを鮮度を保ったまま提供するために、一切の妥協はない。
ベーリング海で操業する指定船では、「はえなわ漁」で一尾一尾タラを釣り上げている。刺し網や巻き網で一気に捕獲する方法とはちがい、網の目で魚の身質を痛めないため鮮度を保ちやすいのだという。
釣り上げたタラは、船の上ですばやく血抜きや内蔵処理などの「活締め」が行われ、すぐに急速冷凍される。このスピード処理で鮮度を保ったまま、太平洋をわたり塩釜に運ばれてくるのだ。
港に水揚げされたタラはヤママサの工場に運ばれ、マイナス30℃のコイル式冷蔵庫で保存される。コイル式冷凍は、風による冷凍焼けがなく、鮮度を最大限に保つことが可能だという。
このみずみずしさを保ったタラを、ヤママサでは加工当日の朝に解凍する。おいしさが損なわれることがないように、蒸気で煮沸殺菌しながら低温でゆっくりと解凍するため、細胞の破壊がなくドリップも最小限に抑えることができる。こうして細心の注意を払いながら鮮度を保ったままのタラは、職人の手で一尾一尾ていねいに加工され、商品となって届けられるのだ。
タラの本当のおいしさを届けるために
「おいしくて栄養価が高いタラですが、鮮度が落ちると食感がバサバサになったり、臭みが出やすかったりするので、品質管理にはすごく力を入れています」と話す三嶋さん。
タラは身肉の水分量が83%と、ほかの魚と比べても多いため鮮度落ちが早いのだという。
そのため、スーパーなどに並ぶ切り身は、塩漬けで加工された「塩たら」が主流だ。しかし、強めの塩分で塩漬けされているものも多く、塩抜きに手間がかかったり、塩辛い魚と認識されてしまうこともよくあるのだという。一方で加工しない「生たら」も流通しているが、鮮度管理が行き届かないものは臭みがあるため、それを口にして魚自体が苦手になってしまう人もいるのだそうだ。
「それが本当に悔しくて……。本来のタラのおいしさは、匂いもなく、身がふっくらとしていて、どんな料理にも合う魚なんです。それがなかなか伝わらないことがもどかしいんですよね。だからこそ努力と手間は惜しまずに、おいしいタラを届けたいと思うんです」と三嶋さんは力を込める。
熟練の職人技で上質なタラに加工を
「ヤママサのタラが鮮度が高い秘訣は、原材料をシンプルにして職人たちが手をかけて加工をしているからなんです」
その言葉どおり、塩タラに使う原材料は「塩」のみで、保水剤や酸化防止剤などの添加物は一切使用していない。塩は水深300mの深さから汲み上げられた海水を天日干しして作る深層海塩を使い、塩分濃度は約1%ほど。一般的な塩タラでは2%〜4%の塩分なので、かなり控え目だ。
「魚自体をいちばんおいしく味わえる塩加減にしています。なので、うちの『塩タラ』は塩抜きの必要がないんです。この塩分濃度1%を実現するためには、魚の劣化を防いで手早く加工する必要があるのですが、熟練の職人たちが日々腕を磨きながら行っています」
工場に入らせてもらうと、厳重な衛生管理のなかで職人たちが作業をしていた。ピリッとした空気かと思いきや、職人さんたちは笑顔であいさつをかけてくれて和やかな雰囲気だ。
フィーレ状や切り身にしたタラは、一本一本手作業でていねいに骨抜きをしていた。それだけでなく、ライトテーブルに当てて寄生虫のチェックまで行っている。正直、ここまで細やかに加工をしていることに驚いた。
この手間ひまかけたタラを使って今回ヤママサが開発するのは、ヘルシーで栄養たっぷり、旨味がぎゅっと凝縮されたひとり用の「たらちり鍋」だという。
文・奥村サヤ 写真・窪田隼人