試行錯誤し、乾燥時間を半分以下に短縮
フリーズドライのワカメは、洗ってからボイルし、トレーに並べて急速冷凍する。その後、トレーごと機械に入れてフリーズドライ処理をする、という工程で作る。
もっともポイントとなるのはフリーズドライ処理。つまり真空状態で水分を抜いて乾燥させる工程で、「要領を得るまで1ヶ月半ほどかかりました」と製造責任者の阿部和希さんは話す。
阿部さんによると、当初、乾燥時間は72時間と目安よりも長くかかったという。そこでもっと短時間で効率的に乾燥できるよう、ワカメの並べ方を試行錯誤した。最終的には、一定量をのせ、空気が入りやすいようにクッキングシートなどで覆って、その上にまた一定量をのせる……という並べ方にたどり着いたという。その結果、乾燥時間は32時間にまで短縮。また、きれいな形で乾燥させるために、トレーにはワカメを一本一本並べるという工夫もしている。
商品をいただき、後日自宅でラーメンに入れてみたが、まず香りの良さに驚かされた。もちろん味も食感も良く、まるで生のワカメを食べているよう。何より、ラーメンなどに入れてもすぐに食べられるという手軽さは、大きな魅力だ。
パッケージのデザインで特徴を伝えよう
「でも、一番苦労したのはマーケティングだったかもしれません」と清水川さんは振り返る。
というのも、「フリーズドライのワカメ」という商品が世の中にないので、ワカメの葉の大きさや1袋の容量がどのくらいだと消費者は使いやすく買いやすいか、といった「ニーズ」を集めることができなかったのだ。しかも村内では「間引きワカメは漁師さんからもらうのが当たり前」という認識なので、周囲の意見は参考にならない。そこで清水川さんたちは、催事で他県に出かけた際にリサーチしたそうだ。
「そのときに痛感したのは、田野畑産ワカメや新芽の魅力を言葉や文章で伝えるのは難しいということでした。他産地や乾燥品との違い、新芽の特徴などを伝えないと買ってもらえない。でもいくら説明しても『ワカメはワカメでしょ』と言われてしまって……。また、『文章で説明されてもわかりづらい』といった声もありました。そこで、パッケージのイラストで田野畑産ワカメや間引きワカメの特徴を説明しよう、とひらめいたんです」
早速、県内在住のデザイナーとやりとりしながら、パッケージづくりに取り組んだ。土産品として若い世代にも手にとってもらえる、喜んでもらえるような可愛らしいものを希望していたので、特にイラストについては議論を重ね、決まるまでに1ヶ月ほどかかったという。
そうして完成したのは、ワカメの先端を立たせたユニークなデザイン。しかも、箱を解体して広げるとワカメの特徴を説明した親しみやすいイラストが現われるという、凝ったものだ。商品名は、「ワカメの新芽」から「若めのワカメ」と名付けた。
商品の規格は、8gの箱入りと、20gの袋入りで、販売価格はそれぞれ800円と1280円を予定している。箱入りは土産用で、味噌汁1杯に使うワカメを約0.5gと設定したうえでの約16杯分だ。一方の袋入りは、自宅用を想定し、箱入りよりもお得な価格設定にしている。
村の漁業とワカメの未来を担って
田野畑村の漁業者は、高齢化や後継者不足などにより年々数が減っているという。だからこそ、この商品をヒットさせて漁業者の所得向上につなげ、減少歯止めの一助になりたいと、佐々木さんたちは願う。
そしてそれは、田野畑村産の貴重なワカメを守ることにもなる。
また、村の漁業協働組合には主に水産物の加工を担う「女性部」という組織があるが、その高齢化も問題になっている。その点でも、「新商品が成功して増産が決まれば、女性部の活性化や雇用促進につながるのではないか」と佐々木さんは期待する。
「いつか村外の人に、『田野畑村といえばフリーズドライのワカメだよね』と言ってもらえるような商品に育てたい」と清水川さん。「若めのワカメ」を食べた人たちが、田野畑村に興味を持ち、ファンになり、訪れてくれる日を描き、今日もひたむきに商品と向き合っている。
文:赤坂環 写真:川代大輔