2024.11.15
宮城県2024.11.15
宮城県産の牡蠣、ホヤ、鮭で
居酒屋以上、料亭未満の贅沢を〈後編〉
株式会社カネシメ

  • 宮城県
  • 株式会社カネシメ

前編はこちらから

株式会社カネシメ

飲食店向け事業、コロナ禍で危機的状況に

カネシメは、「仙台市民の食の台所」として知られる仙台市中央卸売市場そばに工場を持つ。設立以来、宮城県産の水産物を中心に、主に居酒屋や飲食店向けに水産加工品を提供してきた。

なかでもとくに、地域の水産業者との強い結びつきを活かした「職人レス」サービスは、多くの飲食店から高い評価を得ており、熟練の職人がさばいた新鮮な魚を、迅速に届けることで知られている。これまで同社売上の9割を占めていたのは、この飲食店向けの製造受託事業であった。

株式会社カネシメ
取材時は、スーパーへ納品するネギトロをつくっていた

しかし2020年に突如襲ったコロナ禍により、状況は一変。取引先の飲食店が次々と廃業に追い込まれ、同社の売上も大きく減少してしまう。これにより、同社が大きく依存していた飲食店向けのビジネスモデルが持つリスクが浮き彫りになった。

「飲食店だけに頼るのは危険だ」と感じた千葉さんは、即座に方向転換を決断。1割程度しかなかった量販店向けの卸売事業を強化することで、新たな販路を開拓し始めた。その結果、現在では飲食店向けと量販店向けの売上比率が5:5にまで変わり、リスクの分散に成功した。

漁師との「顔が見える」取引を重視

株式会社カネシメ
「ちょっと贅沢したい」ときにぴったりのつまみを考案

さらに千葉さんは、3本目の事業の柱として、一般消費者向けのBtoC事業に着手することを決断。地域の水産物を全国に届ける、新しいビジネスモデルの構築だ。

中でも常温保存が可能なファストフィッシュ仕様のレトルト加工品を最初の商品に選んだのは、忙しい現代人にも手軽に魚介類を楽しんでもらいたいという思いから。面倒な調理は一切必要なく、パッケージを開けたらすぐに食べられる利便性が特徴だ。

居酒屋向けの商品を長く手掛けてきた経験を活かし、ターゲットは主にお酒を飲む男性とした。「たまにちょっと贅沢なおつまみを楽しみたい」というシーンを想定しており、もうひとつのターゲットには、贈答用としての需要も見込んでいる。宮城県を象徴する牡蠣やホヤといった海産物を使用していることから、贈った相手に「地元からのギフト感」を感じてもらうことが狙いだという。

また、おいしい商品をつくる秘訣について、カネシメが鮮度と同じくらい大切にしているのが、漁師との顔が見える取引だ。単に鮮度が高い魚を仕入れるだけでなく、その魚を誰がどのようにして獲っているのか、漁師の顔を知ること。そうしたストーリーを知ることが重要なのだという。

「水揚げする漁師さんの苦労や人となりを知った上で、その魚をお客さまに届けたい」と語る千葉さん。こうした漁師との信頼関係は、商品の品質だけでなく、消費者の安心感にもつながっている。

「カネシメブランド」を高めさらなる販路拡大目指す

株式会社カネシメ
今後を見据える千葉さん

新商品の開発は現在、最終調整の段階に入っており、2024年12月中の販売開始を目指して目下、作業を急ピッチで進めている。

1袋単位で消費者が手軽に購入できる形はもちろん、3つの商品を化粧箱に詰め合わせたギフトセットも用意し、ギフト需要にも対応していく考えだ。パッケージは、メインターゲットである「お酒を飲む男性」に寄せつつも、老若男女、幅広い層の人たちが手に取りやすいデザインを目指している。内袋は透明にし、外袋から中に入っている商品が見られるようにしたい、というのが千葉さんの考えだ。

それと同時に、すでに次のステージをも見据えている。当面はECサイトを中心に販売を行うが、将来的には道の駅やサービスエリア、空港、駅などにも販路を拡大したいと千葉さんは意欲を見せる。とくにギフト市場で成功すれば、同社のブランド価値をさらに広めることができると見込んでいる。

レトルト殺菌機の導入により、商品展開の幅がぐっと広がったことも、この構想を後押ししている。レトルト商品だけでなく、瓶詰めや缶詰にも対応できるため、例えばサバのほぐし身を瓶詰めした商品など、保存性の高い新商品を開発することも可能になるのだ。

こうした状況に対し千葉さんは、「事業の幅がすごく広がってきている。飲食店向け事業がコロナ禍で停滞して量販店向けの事業にも手を伸ばしたことで売上が拡大し、次はBtoC市場への進出で、さらに成長を目指したい」と期待感を滲ませる。

一般向け市場への露出が増えると同時に、これまで手をつけてこなかった自社のブランディングにも注力したいと語る。「カネシメブランド」を育て、商品価値を高めるとともに、すでに新たなシリーズ商品の開発も視野に入れている。同社の新しいチャレンジの行方が、ますます楽しみだ。

文・岩崎尚美 写真・窪田隼人