10種類以上から選びぬかれた海藻ミックス
浜人こだわりの乾燥ワカメを使用した新商品として開発しているのが、「用途別に配合した海藻ミックス」。食卓で使いやすいことを重視し、味噌汁用とサラダ用の2種類を用意している。
開発にあたっては、料理研究家の河瀬璃菜さんに監修を依頼したという。さらに、海藻の研究や養殖を行う高知県の「合同会社シーベジタブル」の協力を得て、国内産の海藻10種類以上から、おいしくて最も料理シーンに適した組み合わせと配合が選び出された。
味噌汁用には、ワカメ、ふのり、とろろ昆布をミックスしたものを採用。大袋1袋に20グラム入りで、1人前は約2グラム。1つの商品から約10人前がとれる計算になっている。
最も多く配合されているのは、とろろ昆布だ。これも浜人が手掛ける商品で、一般的にスーパーで市販されているとろろ昆布と比べても色が濃く、味も濃厚。汁物に入れても溶けず、しっかりとした食感が楽しめる。そこにワカメの歯ごたえとふのりの香りが加わり、風味豊かで満足感のある仕上がりとなっている。
サラダ用には、芽ひじき、ワカメ、とさかのりを配合。長ひじきよりもクセのない芽ひじきを使うことで、さっぱりと食べられる仕上がりだ。こちらは大袋1袋、15グラム入りで、約5食分の分量となる。配合されたとさかのりの鮮やかな色味と食感が加わり、サラダのアクセントとしても映える。
サラダ用は一旦水戻ししてから使用し、レタスや豆腐、針生姜などと合わせて食べるのがおすすめだという。阿部さんは、「個人的には、青じそや和風などさっぱりとしたドレッシングが合うと思っています。ちりめんじゃこや梅と合わせてもおいしいですよ」と微笑む。
減少する収穫量と、増加する廃棄量
今、阿部さんが危機感を持っているのは地球温暖化による海水温の上昇でワカメの生産に大きな影響を及ぼしていることだ。
今年の収穫量は過去40〜50年で最悪の水準にまで落ち込み、収穫されたワカメの約5割が廃棄されている現状がある。
「一般の方が想像する廃棄というと、商流に乗った商品が賞味期限切れになったり、食べ残されたりすることだと思います。でも実際にはそのずっと手前、生産の段階で、想像もしないほどの量が捨てられているんです」
例えば、ワカメに穴が空いていたり、色が黄色くなっていたりすると、それだけで正規の規格を満たさず、商流に乗せられないと判断されてしまう。しかし、見た目が多少異なるだけで、味や栄養素にはまったく問題がないのだという。
長年この現状に疑問を抱いてきた阿部さんは、あるとき「対話で解決できるかもしれない」とひらめいた。生産者と販売者が対話することで、「ワカメは緑色でなければならない」「穴が空いていてはならない」といった固定観念を払拭できるのではないかと考えたのだ。
だからこそ浜人では、対話によって商品の良さを伝える努力を怠らない。浜人の商品を購入したいというバイヤーには、必ず船に乗って現場を見てもらい、きちんと理解してもらったうえで、取り引きを行うという徹底ぶりだ。
今回の海藻ミックスは、未利用資源を活用したいという阿部さんの想いも含まれており。乾燥させることで色が黒っぽくなるため、見た目のばらつきが気にならなくなるうえ、複数種類の海藻をミックスすることで、穴や色の違いも目立たなくなる。これまで商流に乗らずに廃棄されてきた資源に、新たな価値が与えられるのだ。
生産者も消費者も、全員で「食」を守りたい
震災を経験した阿部さんにとって、「食を守ること」は最優先の課題だ。
しかし、地球温暖化や海水温の上昇といった環境の変化は、生産者だけの力で解決できるものではない。だからこそ変化に対応し続け、今できることに一つずつ着実に取り組む姿勢が求められる。
その一つが、見た目やちょっとした理由で食べ物を選び、捨ててしまう行動を減らすこと。私たち一人ひとりの小さな意識の変化が、持続可能な未来への第一歩となるはずだと阿部さんは語る。
「食べ物は私たち全員に関わるものです。何か問題が起きたら、生産者だけでなく、消費者も販売者も全員で解決策を考えなければいけません。本来、食はもっと大事にされるべきものです。生産者も消費者も一緒になってその価値を考え直し、未来のために食を守り続けたいですね」
浜人が開発した海藻ミックスは、ただおいしくて便利なだけではなく、海藻の廃棄量削減にもつながる商品だ。これを選ぶこともまた、私たちができる「食と地球を守る一歩」になるだろう。
文・岩崎尚美 写真・窪田隼人