宮城県石巻市の北東部に位置し、親潮と黒潮が交差する豊かな三陸漁場に面する十三浜。
古くから漁業で栄えてきたこの地は、東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた。「漁業生産組合浜人(はまんと)」は、震災直後に立ち上がり、十三浜のワカメ漁師5世帯が立ち上げた組合だ。
ミネラルたっぷり、肉厚で歯ごたえのあるワカメは、高級料亭にも卸されるほど。今回、そんな高品質なワカメを生産する浜人が贈るのが「海藻ミックス」だ。
味噌汁やサラダなど、用途別に配合された海藻ミックスは忙しい現代の私たちの味方になってくれるだろう。「この商品を通して『食』を守ることにもつなげていきたい」という、浜人理事の阿部勝太さんにその想いを伺った。
震災を経て立ち上がった「浜人」
2011年3月11日、東日本大震災。石巻市にある十三浜は、高さ10メートルを超える大津波に襲われ、地域全体が壊滅的な被害を受けた。道路は寸断され、陸の孤島と化し、十三浜には救援物資すら届かず3ヵ月もの間ライフラインが完全に途絶えたという。
そのとき阿部さんをはじめとする地域の人々が身をもって痛感したのは、「食」の重要性だった。生きるために欠かせない「食」が、どれほど尊いものであるか。それを肌で感じた経験が、現在の「浜人」の活動の原点となっている。
震災からわずか半年後の2011年10月、元々自営で漁業を営んでいた5家族が協力し、早期の復興を目指して「漁業生産組合浜人」を立ち上げた。以来10年以上にわたり、十三浜の恵みである海藻を育て、加工し、全国に届けている。
十三浜では、北上川が運ぶミネラルと外洋で潮の流れが速い海水が混じり合い、肉厚で歯ごたえのあるワカメが育つ。浜人では、この世界最高峰と胸を張れるほどのワカメを主力商品として、高品質な海藻を生産することに尽力してきた。
家庭で手軽にワカメを食べてもらうために
浜人では、これまで全国の高級料亭や高級飲食店に良質な生ワカメを卸してきた。しかしコロナ禍の影響で需要が減少したことで、一般消費者向けの販売にも力を入れている。
「うちのワカメは肉厚で、シャキシャキした食感が特徴です。その食感を一番強く感じられるのが生ワカメ。湯通しして食べると、おいしさを実感いただけます。でも、家庭では保存しやすくて扱いやすい方が好まれるので、家庭用の『塩蔵ワカメ』を製造しています」と阿部さん。
しかし塩蔵ワカメは、水戻しをして塩抜きをするという手間がかかる。忙しい共働き家庭など、料理の手間を少しでも減らしたいという人も多いだろう。そこで、今回、もっと手軽でさらに日常使いしやすい「乾燥ワカメ」の商品開発を目指した。
一般的な乾燥ワカメは、高温で乾燥させる過程で繊維質が大幅に壊れてしまうという。その結果、やわらかくなりすぎて歯ごたえが失われ、溶けやすくなってしまうのだ。乾燥ワカメを汁物に入れたものの、ドロドロになってしまったという経験がある方もいるかもしれない。あれがまさに、繊維質が壊れた現象なのだとか。
一方、浜人が作る乾燥ワカメはどうだろうか。
「うちの乾燥ワカメはこだわって作っているので、味も食感も自信があります」と阿部さん。
浜人の乾燥ワカメは、繊維質がある程度壊れることを見越して作られているという。生や塩蔵で食べるには硬すぎるワカメを乾燥用に振り分け、それを低温長時間乾燥させているのだ。この製法により、繊維を壊しすぎず、十三浜産のワカメらしいシャキシャキ感を保った乾燥ワカメが出来上がる。
また、硬さごとに選別する手間を惜しまない。選別作業は時間もコストもかかるため、通常のメーカーであれば手をつけない作業なのだという。そのため商品によって、硬かったりやわらかかったり「当たり外れ」が生じてしまうこともある。阿部さんは、「品質にこだわるのが、私たち中小企業の強みです。安売りはしません。その分、価格に見合うだけの理由がある商品を作っています」と胸を張る。
そして今回開発した商品が、用途別に独自に配合された「海藻ミックス」。いったい、どのような商品なのだろう。
文・岩崎尚美 写真・窪田隼人