素材本来の旨みを味わう常温商品の開発
山神が新たに開発した商品「青森・陸奥湾の恵み うまみたっぷりほたて」は、ホタテの素材そのもののおいしさを手軽に楽しめる常温レトルト商品だ。
「素材をすごく大切にする会社ですから、今まで開発してきた商品は基本、冷凍製品だったんです。常温で日持ちをよくすると、その分ホタテの細胞や旨みを壊してしまう心配があるのでなるべく避けてきたのですが、手軽に食べられる商品を目指して常温で保存できるレトルト商品の研究を重ねてきました」。
今回の商品は、水揚げ後すぐ鮮度が高い状態のままボイルし、瞬間凍結機で凍結させる。ホタテの素材と味にとことんこだわり、干す作業を加えることで旨みを引き出しているのだとか。味に一切妥協をしない山神のこだわりがうかがえる。
ホタテの水揚げの最盛期は4~6・7月で、その時期のホタテは貝柱が大きく味も凝縮されている。年間を通して水揚げはされるが、貝柱が一番おいしいのはこの時期のホタテなのだと穐元さんは語る。
「その時期に大量に水揚げされたホタテは、とにかく一次処理しなければいけないんです。1日で100トン、150トンと仕入れたホタテを凍結させておき、繁忙期が過ぎてからそれらを製品化して、年間で工場を動かしながら原料の安定供給を図っています。昔は、鮮度が悪いものを冷凍してしまおうという発想でしたが、今は逆ですね」。
冷凍技術が発達してきたからこそ、鮮度が良いうちに瞬間凍結させられるかが商品の味を左右する鍵だという。マイナス150℃の超低温フリーザーでホタテを凍結させると、ものの2、3分で中心部までカチコチになる。急速冷凍しているので、解凍後にドリップが出ることなく旨みを逃さない。素材の味そのままのおいしいホタテを提供できるのだ。
自分へのご褒美として食べられる商品に
今回の商品ターゲットは、おいしいものに対する感度が高い方を意識しているという。加熱するなどのひと手間を加えなくても、すぐに食べられる手軽さが魅力だ。商品開発には女性社員が積極的に関わり、ターゲット層の視点に立って考えたという。
商品の味の展開は醤油味と塩味の2種類。口に含むと、ホタテ本来の旨みと同時にまろやかな塩味が広がった。お酒との相性も良さそうだ。貝柱は繊維をしっかりと感じられ、噛めば噛むほどじんわりと旨みが増す。濃すぎず、決して物足りないわけでもない。このちょうどよい塩梅の味付けを目指して、社員で何度も試食を重ねたという。
「シンプルな味付けだからこそ、ホタテが本来持っている味や質感を大切にした商品になりました。賞味期限が常温で2年持つので、アウトドアや近年意識が高まっている防災食としても活用してほしいと思っています」
むつ湾で育むホタテの価値を伝えていきたい
今後の原料の安定供給については、陸上養殖などさまざまな案を検討中だそう。穐元さんは、国内需要の減少も危惧しているという。
「一番ショックだったのは、身近にいる地元の子どもたちがホタテの食べ方を知らなかったことです。今までホタテを食べたことがないと答えた子もいたくらいで……」
海がすぐそばにあるホタテの産地で生まれ育ったとしても、食べる習慣がなければ子どもたちの魚介類離れはどんどん進んでいく。本当においしいホタテを食べてもらい、むつ湾の恵みで育つホタテを知ってもらう機会を作って、次世代を担う子どもたちに向けた商品づくりをしていきたいと話す。
それと同時に、ホタテの新たな価値を伝えていく使命もあると穐元さんはいう。
「ホタテの貝殻の粉末でネイル化粧品や洗剤などを開発しています。地元のホタテ漁師さんたちが『山神は面白いことを考えつくね』と言って、応援してくださることがうれしいです。『ホタテは身だけを食べるもの』という固定概念を破り、今ある資源でどんなことができるかを柔軟に考え、実行していきたいです」
行政や漁協などの関係機関と連携しながら、自分たちにできる環境への配慮をし続け、むつ湾が育むホタテの真のおいしさを全世界へ発信したいと話す穐元さん。ホタテのリーディングカンパニーとして、山神はこれからも走り続けていくだろう。
文・鈴木麻理奈 写真・世永智希 (2枚目 山神提供)