太平洋に突き出た半島の地形、関東最東端の町である千葉県銚子市。黒潮の影響で一年じゅう温暖で多湿な海洋性気候のため、真冬でもほとんど雪が降ることがない。漁業と農業が盛んで、醤油の醸造にも適した町としても知られている。
そんな銚子市で、水産物の加工、製造、販売を行っているのが「一政水産株式会社」だ。長年、骨取り魚の加工食品製造も手がけており、大手スーパーマーケットをはじめとするお客様から定評がある。
今回、一政水産が新たに開発したのが漬けいわし、真鯛湯引きスライス、キハダまぐろのサク が入った「お刺身用セット」。銚子沖で獲れる3種の鮮魚を詰め合わせた商品開発に至るまでの道のりを伺った。
銚子の新鮮な魚を扱う水産加工メーカー
一政水産は1971年の創業以来、ここ銚子で50年以上にわたり水産加工業を営んでいる。
「もともとは練り物の製造からはじまった会社だったんです。現在は魚屋の仕事のうちのほぼすべてをおこなっているようなイメージですね」と教えてくれたのは取締役の北川真弓さんだ。
その言葉のとおり、銚子漁港で水揚げされた魚を中心に全国各地の漁港から魚を仕入れ、干物の製造や鮮魚を取り扱うほか、マグロ、サバ、イワシ、イナダ、ブリなどを用いた原料用冷凍魚製品の製造、輸出も行っている。この貿易事業に加え、近年力を入れているのがECサイトにおける自社開発商品の販売だ。
本事業において、2022年には銚子つりきんめの極上刺身を開発。そして2023年にはタチウオの刺身を開発した。お歳暮や年末年始にとくに需要があり、関西のお客様を中心に好評を博した。
「関西ではタチウオを鍋に入れて食べる文化があるそうです。在庫で持っていた分のタチウオまでほぼ完売しました。関東ではそもそも食べる文化がそこまで根付いておらず、それまで私自身もあまり食べたことがなかったので実は意外でした。自分たちの視点だけでは見えていないことも多いので、商品開発するうえでさまざまなお客様の目線を知ることができてよかったです」
EC販売を通じて、銚子から遠く離れたお客様の反応、文化を知ることができ、商品の開発にも手応えを感じたという。
鮮魚3種のギフトセットができるまで
キンメダイとタチウオの刺身をそれぞれ単品で販売してきた一政水産だが、「2年ほど前から個人のお客さまに向けて鮮魚でギフトセットを作りたいと思っていた」と北川さんは話す。
「一般的にECサイトで販売されている水産物の詰め合わせやギフト商品は、干物や焼き魚が多い印象があり、生のお魚のギフトセットはあまり無いなと思っていたんです。キンメダイやタチウオの刺身を販売した経験から、お歳暮やお中元の時期に鮮魚の需要があることも分かりました。そこで、一昨年導入した特殊凍結機を活用して、鮮魚を使ったギフトセットを作ることにしたんです」
こうして「生のお魚のおいしさを体感してほしい」と今年新たに開発したのが「漬けいわし、真鯛湯引きスライス、キハダまぐろサク」の3点を詰め合わせたお刺身用セットだ。
数ある魚種の中でも、マイワシ、マダイ、マグロという3種に目をつけたのはなぜだろう。
「銚子といえばマイワシが有名です。ただ、下処理や調理をしてまで食べるかというとご家庭では難しいですよね。まずは食卓にのぼってほしいという思いから、家庭でも手軽に、解凍したらそのまま刺身で食べられる商品を開発しようと考えました。それに加えて、今年は春から夏前にかけて銚子では珍しく水揚げがたくさんあったマダイと、年齢層に関係なく人気の高いマグロを合わせて3点のギフトセットにしました」
これまでマグロをサク状にした商品は開発していたものの、マイワシとマダイを干物以外の形に加工した商品は意外にも初めての試みだったという。
「マイワシやマダイは鮮魚のまま提供したり、まるごと凍結して販売したりすることが多かったんです。そのため、タイを湯引きしてスライスしたり、マイワシを開いて味つけした商品の開発は初めてでした。とくにマイワシは身がやわらかいので、漬け込む調味液の分量や時間で味の染み込み方が変わってくるので試行錯誤の連続だったんです」
文・写真:寺田さおり(写真4枚目:EAT PHOTO)