世界初の「うにバター」を生み出す
2019年、北三陸ファクトリーでは看板商品の「洋野町うに牧場の四年うに」を使って「UNI&岩手産バタースプレッド」を開発した。今でこそ小売店などで見かけるが、当時はまだ世の中になく世界初の商品だった。
開発のきっかけになったのは、海外での商談でのこと。同社のうにを食べたシェフの、「これはバターと合うのでは?」というひと言だ。
当時、世の中に出ていたうに製品は「塩うに」や「蒸しうに」などで、主に和食に合う商品だった。しかし、シェフのひと言から洋食への可能性を見出し、うにバターの開発がはじまったのだ。
レシピは自社で考案した。ポイントはうにとバターの配合で、試行錯誤を経て最終的にうにが7割、バターが3割の配合に決まった。うには水揚げ直後に蒸し上げた蒸しうにを、バターは、うにと相性が良い岩手産の発酵バターを使用。唯一無二のうにバターを完成させた。
最高品質のうにと発酵バターを使用した世界初のうにバターは、濃厚な旨みのかたまりだ。ひとぬりすれば、バゲットもクラッカーも無限に食べられそうなほどのおいしさが口の中に広がる。販売直後から人気商品となり、2019年度岩手県水産加工品コンクールでは農林水産大臣賞を受賞している。
うにバターをブラッシュアップし世界へ!
評判も売上げも順調な「UNI&岩手産バタースプレッド」を、今回、改良して販売する予定だ。きっかけは、2023年に海外で販売した経験だという。
海外でうにバターはすぐに人気を集めたのだが、販売するにはさまざまなハードルがあった。例えば、飲酒が禁止されているイスラム圏では使用する調味料が限られる、といったことがある。また「うに=高級食材」として評価されていることもあり、パッケージの変更なども必要であると感じた。そこで、内容量やパッケージをブラッシュアップし、より世界中に認められる製品にすることに踏み切った。
「完成直後の味はもちろん、お客様が使用するシーンをイメージしながら、商品化に向け、さまざまな角度から議論しました」と眞下さん。確認作業は自社だけにとどまらず、レストランのシェフにも依頼し、消費者のニーズに合わせた商品に仕上げた。
もうひとつ改良したのが、内容量だ。既存品は60gだったが、お客様から「少量をじっくり楽しみたい」という声が多かったため、今回変更したという。より高級感を感じながらも、これまでよりも手に取りやすくなったことから、「ぜひ、特別な日の一品やギフトなどでもご利用いただきたい」と眞下さんは話す。
実は、2019年の発売時にはバゲットやクラッカーに塗る食べ方のみを想定していた。しかし、人気が高まるにつれ想定外にSNSやメディアでアレンジレシピが広まったという。茹でたてのパスタにからめたり、炊き立てのご飯にのせて醤油を垂らしたり、炒飯に使ったり……、楽しみ方は無限大だ!
「うにバターを楽しんでくださるお客様のおかげで商品の可能性を、そして、うにの可能性をより感じるようになりました」と眞下さんは顔をほころばせた。
日本初、うにで「EU-HACCP」の認証を取得
「これまでの既存の商品を見直す機会って意外と少ないんですよね。でも今回の改良をきっかけに、細かいところまで再検討することができ、結果的にブラッシュアップという新しいチャレンジができました。世界へ北三陸のうにのおいしさを発信する契機にもなると思います」
同社では今年、日本で初めてうにで「EU-HACCP」の認証の取得を予定している。これによりドイツ、スペイン、フランスなどEU諸外国に向けた輸出が可能になる。これまでの展示会や商談等で、ヨーロッパでうにの需要があることを実感してきた。今後は、うにを輸出するほか、加工品の共同開発など、新しいビジネスの展開にも期待を膨らませている。
世界唯一の「うに牧場®」から育つうにの可能性を広げる挑戦は、まだまだ続きそうだ。
文:赤坂環 写真:川代大輔