2024.11.22
福島県2024.11.22
サンマの旨味がギュッ!
小名浜「サンマラーメン」〈後編〉
有限会社上野台豊商店

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有限会社上野台豊商店

取り扱いのしやすさを販売の強みに

上野臺さんの開発したサンマラーメンには、味以外にも、もう1つのこだわりがある。それは、常温保存が可能な商品である点だ。

「ECサイトでの販売に加えて、観光物産館などさまざまな販売店で取り扱ってもらえる商品を目指しています。そのため、常温保存可能な商品を開発しようと考えました。販売者の立場からすれば、常温保存が可能な商品は、在庫管理がしやすくて重宝しますからね」

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魚介類市場やレストラン、お土産コーナーもある「いわき・ら・ら・ミュウ」

上野臺さんは販売者側の気持ちをよく理解していた。それには、観光複合施設「いわき・ら・ら・ミュウ」館内に出店している上野台豊商店の販売拠点「小名浜あおいち」の存在が影響しているという。

「小名浜あおいちには、冷凍・冷蔵・常温それぞれの商品棚があります。店内に商品を並べていると、福島県らしいお土産向け商品に、常温保存可能なものが少ないと気づきました。販売者にも、買い手となる消費者にもニーズがあるのに、もったいないと感じたのです」

ECサイトを通じて全国の消費者へ、そして現地を訪れた観光客へ、福島の海の恵みを届けたい。その実現には、商品が常温保存が可能であることも、強力な後押しになりそうだ。

「魚食」の入口として、サンマラーメンを

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多彩な商品のアイデアを生み出す上野臺さんの、アイデアの源泉となっているのは、小名浜あおいちにやってくる買い物客との会話だそうだ。

「製造加工の現場しか知らなかった頃は、商品が売れ残るのは販売員の力量のせいじゃないかと考えていました。売れ残った商品の多さを見て『しっかり売ってくれ』と憤ったこともあります。しかし、あおいちの店頭で接客を担当するようになってから、見方が変わりました。売れる商品は、店員が何もしなくても売れてしまう。一方で、売れない商品は、どんなに熱心にセールストークをしたとしても売ることができない。お客様が何を求めているのかと考えることが、商品づくりのスタートなのだと学びました」

販売や接客の経験は、上野臺さんの製造者としての姿勢を変えた。魚を日常的に食べる文化が薄まる現代社会では、魚を調理することに慣れていない消費者が増えた。魚を食べることへのハードルを下げるには、簡単に食べられる商品、すぐに食べられる商品を企画することも有効だと考えている。

「そのためにも、ラーメンという選択です。お湯を沸かすことと麺を茹でることができれば、すぐに食べられます。そしてラーメンは老若男女問わずに好まれるメニューです。魚を食べることには億劫でも、ラーメンなら興味をもって食べてもらえるのではと考えました」

「ここに小名浜の海がある」遠く離れた消費者へも届けたい

有限会社上野台豊商店

サンマラーメンの開発とEC出品を通じて、上野臺さんは「小名浜」という町がここにあることも広めたいそうだ。「サンマラーメンの購入者がこの地域の存在を知り、いつか訪れてみたい場所のひとつに加えてくれたらうれしいですね」と語った。

そして、「今獲れる魚を大切にしてほしい」と力を込める。地球環境は刻々と変化し続けている。近年では、小名浜の海でもイセエビやタチウオが揚がるようになった。小名浜の漁業が、今後どのように変化するかはわからない。今、小名浜で獲れている魚が、将来食べられるとは限らないのだ。

「今の小名浜で揚がっている海産物は、今を生きる私たちしか味わえない貴重なものなのかもしれません。だからこそ、大切に食べていきたいです。小ぶりな魚も、食べづらい魚も、工夫をすればきっと無駄にせずに食べられますから」

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最後に、限られた水産資源を大切にするために今後取り組みたいことを伺った。

「サンマの煮干しの製造方法をブラッシュアップして、煮干しをより効率的につくる体制を整えたいです。あとは、サンマの煮干しでとっただしをより活用していきたいと考えています。おでんだしとしての販売や、ラーメン店の開業など、やりたいことがまだまだあります!」

サンマラーメンを通じて、もっと小名浜のサンマに親しんでほしいと願う上野臺さん。これからも小名浜に新しい風を呼び込んでくれるだろう。秋空を映した海は、未来を期待するかのように青くやわらかくきらめいていた。

文・橋本華加 写真・吉田和誠