既存のノウハウから新商品のアイデアを
今回の商品開発では、潮煮シリーズに「北寄貝(ほっきがい)」が、スモークシリーズには「銀鮭」が加わる。いずれも宮城県の名産品といわれる海産物であり、宮城の味を届けたいという末永海産の想いのもとに選ばれた。
「弊社では『ほっき飯の素』という商品を作っているため、ほっき貝の潮煮はすぐに試作品ができました。甘みが強く、食べやすくて、社員からも好評だったんです」と、末永さんは言う。加工の行程では、既存の潮煮のノウハウを用いることでうまく味を引き出せたそうだ。
一方、スモークの銀鮭は苦戦をしたらしい。
「従来のやり方だと、味わいがどうしても淡白になってしまったので、初めて味付けすることに挑戦したんです。味付けは、弊社商品の『はらこ飯※の素』をベースに、醤油、砂糖、酒、みりんを使っています。シンプルですが、はらこ飯発祥の店の料理長と考えたものだったので、おいしさに迷いはありませんでした。しっとり仕上がるように、火加減を調整するのにも時間がかかりました」
はらこ飯:鮭の身とイクラ(はらこ)を鮭の煮汁で炊いたご飯に盛り付けたどんぶり飯。宮城県の郷土料理。
三陸の味を届けたい
豊かな環境で育った三陸の味を食卓に届けるべく、いろいろな加工の形に取り組んできた末永海産。しかし近年は猛暑の影響を受け、養殖ものの収穫量は6割弱程度になってしまっているそうだ。
「海の環境が変わってしまったからこそ、これまで当たり前のように海産物が獲れていたことを本当にありがたく感じています。それでも宮城県沖や三陸の海は豊かで、ここで獲れるものがおいしいことには変わりありません。商品を通して、素材の味やおいしい食べ方を提案できたらと思います」
今回、新商品が出るタイミングで、潮煮シリーズとスモークシリーズのパッケージもリニューアルする。その背景には「より手にとってもらいやすいように」という想いがあり、従来のものよりカジュアルな仕上がりを意識している。自家消費のみならず、贈り物や地域の名物土産として、三陸の味が広がっていくことを望んでいるからだ。
「どうぞ、お持ち帰りください」
そう言ってたくさんの商品を持たせてくれた末永さんのこの言葉に「まず食べてほしい」という想いを感じた。帰り道、漁師でも水産業に関わるものでもない私にできることを考える。私は家に帰り、友人たちを誘って、いただいたものを囲むことにした。
調理に便利な潮煮、おつまみにしたいスモーク
潮煮シリーズでは、貝それぞれ特徴的な味を楽しめる。ごろりとした大きな身は贅沢気分を味わえ、お酒と一緒にそのまま食卓に並べればご褒美晩酌のはじまりだ。
加えて、アレンジをして食べるのも人気なのだそう。SNSで「#牡蠣の潮煮」と検索してみたところ、炊き込みご飯やパスタ、スープなどにアレンジを加えて楽しんでいる人が多く見られた。石巻市内のカフェでは、潮煮シリーズ「牡蠣」の入ったスパイスカレーを提供している店もあり、楽しみ方は無限大。
さまざまなアイデアを参考に、いただいた「北寄貝の潮煮」でクラムチャウダーを作ることにした。貝の出汁を取る必要がないだけで、ひと手間かかる一皿にも、気軽に挑戦できることがうれしい。北寄貝は、うかがった通り出汁の甘みがあり、身はつるんと柔らかくて扱いやすい。野菜の旨味も相まって、調味料をほとんど加えず味も決まった。
銀鮭もいただいてみた。普段はお酒はあまり飲まないけれど、濃い味付けに思わず飲んでみようかという気持ちになった。こだわったという食感はしっとりほど良く、ごはんに合わせてもおいしいだろう。滑らかなクリームチーズとのマリアージュもおすすめだ。
「スモークシリーズは、おつまみとしてそのまま召し上がっていただきたいです。宮城県には蔵元もたくさんあって、飲みやすい地酒も多いので、お好きなものと合わせて風土を感じてもらえたらなと。私も毎日晩酌しています」
末永さんが笑いながらそう話していたことを思い出し、おいしいお酒がある地域だからこそ、旨いつまみも発展してきたのかと想像する。親しい人たちと食卓を囲み、おいしい体験を分かちあうような豊かな時間も、海と魚の未来も明るくするものであってほしいと願った。
文・写真 蒔田志保