海の変化から福袋の着想を得る
今回新たなチャレンジとなる「三陸・常磐 揚げ物福袋セット」「三陸・常磐 海鮮丼福袋セット」のアイデアは、現在の水産業が抱える課題に対する打開策の1つとして生まれたという。着想の背景には、魚種の水揚げが年々予測困難になっている現状がある。
かつては「おおよそこれくらい穫れるだろう」と予測しながら商談を進められていたが、近年は水揚げの傾向が大きく変わってきているため、今では見通しが立てにくくなったというのだ。
ある魚種が思ったように取れない一方で、これまであまり見られなかった魚が突然大量に水揚げされることもある。たとえば、ヒラメを一定量売るという契約があった場合、予想以上に水揚げが減少すれば、他の市場から高値で仕入れざるを得ない状況になる。
こうした状況の変化は、震災後から徐々に顕著になり、とくにここ数年は温暖化の影響も相まって加速していると高橋さんは指摘する。
何でも売れる仕組みを作り、持続可能な商品を
不確実な水揚げ状況に対応するために生まれたのが、「何でも売れる仕組みを作る」という発想だという。
特定の魚種に依存するのではなく、その時々の水揚げに合わせた商品を提供できる体制を整えることで、持続可能な商品提供を実現するのだ。この発想から生まれたのが、「三陸・常磐 揚げ物福袋セット」「三陸・常磐 海鮮丼福袋セット」だという。
そのため、福袋の中身は水揚げ状況に応じて変化する。何が届くか開けてみるまでの楽しみは、消費者にとってワクワクを生むと同時に、食品ロスの削減にもつながっている。たとえば、通常では商品化が難しい規格外の魚や、加工段階で生じる切れ端なども福袋に活用することで、無駄なく食材を使い切ることが可能になるのだ。
震災や地球温暖化という大きな課題に向き合いながら生まれたこのアイデアは、単なる商品の枠を超え、持続可能な未来を見据えた取り組みともいえそうだ。
おいしい魚の価値を、もっとたくさんの人へ届けたい
魚離れが進む現代において、センシン食品は「魚嫌いの人をなくす」というミッションを掲げている。
そもそもなぜ魚離れが進んでいるのか。この問いについて高橋さんは、おいしい魚を食べる機会が減っているからではないか、と分析する。
水揚げ状況の変化や社会的な物価の上昇などさまざまな要素が絡み合い、おいしい魚は以前よりも高価なものになってきている。高橋さん自身、「自分の子どもにおいしい魚を毎日食べてもらいたいと思う一方、金銭的な負担を考えると簡単ではない」とも言う。
一方、質の高い魚を穫るために日々漁師の方たちが奮闘していることを加工業者として感じている高橋さんは、魚の価値をしっかりと伝え、適切な価格で提供することも大切だと考えている。
このミッション達成のための第一歩は、商流の仕組みと消費者のニーズを正しくマッチングすること。そのため今後同社は、DtoC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)事業を強化していきたいと考えているそうだ。これは自社で企画・製造した商品を中間業者を介さずに直接消費者に届けるビジネスモデルを指す言葉で、魚のおいしさと価値をダイレクトに伝える仕組みを構築できる可能性を秘めている。
「『安価での安定供給』は、それが得意なビジネスモデルを持った会社がしたらいいんです。私たちが目指すのは、『良いものを適切な価格で』提供すること。価格以上の満足感を届けることで、おいしい魚がもたらす幸せをもっと多くの人に届けたいです」
文・岩崎尚美 写真・古関マナミ