2024.10.23
岩手県2024.10.23
北三陸“うに牧場®”で育つ
旨味凝縮のウニバター〈前編〉
株式会社北三陸ファクトリー

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株式会社北三陸ファクトリー

岩手県沿岸の最北端に位置する洋野(ひろの)町。ここは、キタムラサキウニの本州一の産地。そのうにを主役に据え「北三陸から、世界の海を豊かにする。」をミッションにうにのブランディング・販売・加工を行っているのが北三陸ファクトリーだ。

「洋野町の海には、世界に例を見ない特殊なエリアがあります。それが太平洋に面した海岸につくられた『うに牧場®』です。上質な昆布やわかめが生い茂る広大な牧場に放牧されたうには実入りがよく、甘みがあり濃厚な味わいなんです」と話すのは、代表取締役副社長の眞下美紀子さん。

今回、この旨味たっぷりのうにを使って、海外市場もターゲットに入れた商品開発をしているという。いったいどんな商品なのだろう。期待を膨らませながら話を伺った。

世界唯一の漁場で生まれた「洋野うに牧場の四年うに」

北三陸ファクトリーの看板商品は「洋野うに牧場の四年うに」。
その名のとおり、約4年かけて洋野町で育まれたうにだという。まず、栽培漁業センターで1年間大切に育てた稚うにを海に放流し、およそ2年間沖合の漁場で過ごす。その後、「うに牧場®」へ移殖され、天然の昆布やわかめを食べて1年間育てられる。こうして、豊かな漁場で4年かけて育てられたうにが漁師によって水揚げされ、出荷されているのだ。

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洋野うに牧場の四年うに

「洋野うに牧場の四年うに」は2016年の販売当初から人気となり、サスティナブルな商品としても注目を集めている。というのも、生産から出荷までのローテーションを厳正に管理することで、獲り尽くすことのないサスティナブルな漁業を実現しているからだ。

さらに、同社では「海を守り、豊かな海をつくる」ことを目指し、うに再生養殖事業にも取り組んでいる。うにを育てることで、⽔産の未来を創ろうと日々奮闘しているのだ。

株式会社北三陸ファクトリー
洋野町のうに牧場®

開発コンセプトは「レストランの味を気軽に家庭で」

とはいえ、うには高価で手が届きにくいと思っていたり、味が苦手だという人も一定数いる。そこで「もっと気軽に食べてもらえるよう、うにの食シーンを広げたい」と考えたことから、新商品の開発にも力を入れているそうだ。「特に今年度は海外市場もターゲットに入れ、商品開発・改良に取り組んでいるんです」と話す。

そのひとつが「うにのパスタソース」だ。パスタソースに着目したのは、家庭で手軽に食べてもらえるうえ、「洋野うに牧場の四年うに」の濃厚な旨みや甘みを活かすことができるから。コンセプトも「最高品質のうにを使った、レストランの味を気軽に家庭で楽しめるソース」とし、東京都内に店を持つイタリア料理店のシェフにレシピ監修を依頼した。

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眞下さんは地元洋野町の出身。8年前に同社の前身である(株)ひろの屋に入社した。

最初にシェフから提案されたレシピは、数種類あったという。それらを眞下さん率いる食品開発部のメンバーや社員たちで試食した結果、「トマトを使ったクリームベース味」に決まった。うにの甘さにトマトの酸味が加わることで、全体の味に奥行きが出てコンセプトどおり「家庭では作れない、レストランの味」になったのだ。こうして味の方向性が決まると、食品開発部による試作品づくりがはじまった。

株式会社北三陸ファクトリー
商品の試作は「KITA-SANRIKU FOOD LAB」というスペースで行われている。

当初、開発部がつくった試作品は、シェフの試作品と微妙に違う点があったという。レシピは同じはずなのに、材料の生クリームを入れるタイミングや煮詰め方など、細かい工程の違いで味やとろみなどのテクスチャーが変わってしまうのだ。

そこでメンバーは、シェフと何度も電話やメールでやりとりしながら調整を加えた。そうして試作を開始して2ヶ月後、シェフから「非常においしくなった!」とお墨付きがもらえるほどのソースが完成したのだ。

「想定よりもスムーズに仕上げることができたので、開発部チームのテンションも上がりました。すぐに次の段階に進もう!と勢いがつきました」と眞下さんは振り返る。ちなみに開発部のメンバーは5人。全員がほかの仕事と兼務しているため、日々の業務を抱えながらの開発は多忙だが、それだけにチームワークがよいことが想像できる。

価格を抑え、素材と食の安全にこだわる

眞下さんが話す「次の段階」とは、原価コントロールだ。目指す味が「レストラン」だったため、シェフのレシピはうにをふんだんに使っていた。しかし、それだと販売価格が高くなってしまう。そこで、うに含有率を調整しながら試作と試食を繰り返した。

ちなみにうに以外の主原料である生クリームは北海道産にこだわるなど、原材料に手を抜くことはない。さらに、これまで同社で開発してきた加工品と同様、添加物も一切使用していないというから驚きだ。

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パスタソースは冷凍で販売

味の確定後は、開発部で「食べ方」にも工夫をした。それぞれアイデアを持ち寄って試食を重ねた結果、一粒ずつ冷凍した自社の「凍結うに」を乗せて食べると、おいしさも満足度も増すことがわかった。発売時には“商品のポイント”として提案するつもりだという。

より、お客様が手に取りやすい商品を目指して

開発は全般的に順調だったが、眞下さんが唯一の苦労として打ち明けてくれたことがあった。それは、消費者が手に取りやすく、使いやすい「常温化」である。

常温のパスタソースは、小売店が売り場に並べやすい、消費者が買い物しやすいなど利点が多いので、当初はその開発を目指していた。しかし、加圧加熱するとどうしても風味が落ちてしまうことから、今年度は冷凍品の開発・販売に切り替えたのだという。でも眞下さんはあきらめていない。加工パートナーとの連携などを含め、今後の生産なども目指している。

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うにの濃厚な旨みにトマトのまろやかな酸味が加わり、食べ飽きない。

また、現在は国内の消費者を想定しているが、将来的には、うにの需要があるヨーロッパなどの海外市場も見据える。実は今年、新商品のほかに既存品の改良も進めているのだが、それは主に海外向けだという。

文:赤坂環 写真:川代大輔

後編へつづく