カリッとおいしい「パンの器」
平賀さんたちが考えた調理工程は、加熱調理したグラタンソースをいったん冷蔵庫で冷やし、それをパンに盛り付けて冷凍するというものだった。こうすればパンはグラタンソースの水分を吸うことはなく、形が崩れない。そして食べる際に解凍してオーブンで焼けば、パンのカリッとした食感が楽しめるのだ。
冷凍したものは、既存商品同様、真空包装し箱に詰めて出荷するが、ホタテの殻のように角がないので袋が破れるリスクは少なく、袋のロスはほとんどない。また、「箱は発泡スチロール製でなくても良いので、コンパクトでリサイクル可能なボール紙の箱を使う予定です」と平賀さん。つまり、サスティナブルな商品により近づくというわけだ。
ただ、殻を使った既存品の製造・販売も継続するという。顧客の中には、残った殻をインテリアなどに利用する人もいるからだ。「将来的にそうしたお客さまの一部が新商品に移行してくださると、コストも削減でき、地球環境にとってもプラスになると思います」と平賀さんは期待している。
地元企業や取引企業の食材を使いたい
川石社長は殻をパンに代えることにともない、味のバリエーションを増やすことも決めた。前述のとおり地元企業や取引企業への想いが深い川石社長は、「そうした企業のおいしい食材や食品を組み合わせて新商品を作りたい」と考えたのだ。
そこで川石商店の担当者と議論を重ねて開発したのが、自家製バター醤油をぬったパンに海苔やグランタンソースなどをのせた「海苔醤油」と、ベーコンをトッピングした「ベーコン」。醤油は岩手県花巻市の「佐々長醸造」製、海苔は豊かな香りの三陸産、ベーコンは山田町の姉妹都市である千葉県香取市の「サンライズファーム」製だ。
「和風味の『海苔醤油』は特に年配の方に、洋風味が増した『ベーコン』は特に若い方に好まれると思います」と平賀さんは胸を張る。
また、プレーンのものも含め3種すべてに、町内の「くりっこ屋菓子店」が製造する餅を小さく切ってトッピングしているのも、川石社長のこだわりだ。平賀さんは最初にこの案を聞いて驚いたが、「食べると味に影響はなく、むしろ食後の満腹感につながる気がします」と相性の良さに太鼓判を押す。
これらの材料には添加物がほとんど使われておらず、背景には「自社の商品をできるだけ無添加に近づけたい」という川石社長の想いがあるという。
自慢のグラタンソースで新しい挑戦を
この新商品には「帆立たっぷりグラタン」の名前が付けられた。手に持ちやすい形とサイズ感で、老若男女が昼食やおやつ、オードブルなどとして手軽に食べられそうだ。また、3種類をそれぞれ4等分にして大皿に盛り付ければ、ホームパーティーのシーンでも活躍するに違いない。
熱々の状態を試食させてもらうと、コクのあるグラタンソースが口の中に広がった。もともとソースには、地元岩手のグラスフェッド牛乳「田野畑山地酪農牛乳」を使っており、その魅力を堪能できる味わい。また、ソース180g当たりに3個のホタテの貝柱が使われているとあって、ホタテの旨みも楽しめる。ソース単体でも充分おいしいと感じるが、パンと一緒に食べることで食欲がいっそう促されると感じた。さらに、見た目以上に食べ応えがある点も嬉しい。
平賀さんは以前から自社のグラタンソースのおいしさを実感しており、「別の商品にアレンジしたい」と考えていたという。試しにこのソースを使ってコロッケを試作したこともあり、予想どおりとてもおいしかったもののコスト面で商品化が難しいと感じた。
「でも、今回初めて商品開発に携わり、苦労とともにやりがいや楽しさを経験することができました。今後はこの経験を活かし、再度コロッケ作りに挑戦するなど、新商品開発に取り組んでみたいです」と意欲を燃やす。グラタンソースを使った新商品が誕生する日は、そう遠くないかもしれない。
文:赤坂環 写真:川代大輔