2024.10.30
千葉県2024.10.30
銚子の仲買人が厳選!
鮮度抜群“地魚フィレ”〈前編〉
有限会社カネ八商店

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有限会社カネ八商店

午前7時30分。銚子漁港の卸売市場がひときわ活気づく時間帯だ。卸売市場は第1から第3まで3カ所に分かれており、場内には水揚げされたばかりの魚がずらりと並ぶ。

キンメダイやヒラメ、メヒカリといった中型の魚種を取り扱う第3卸売市場で日々買い付けを行っているのが、有限会社カネ八商店だ。

1955年の創業から一貫して仲買業を営んできた同社だが、昨年から新たに直接家庭へ届けるための商品開発に取り組んでいるという。現在開発が進められている「3魚種 刺身用フィレセット」の開発のいきさつについて、営業部の宮﨑啓太さんに話を聞いた。

親子3代にわたり続く目利きの仕事

有限会社カネ八商店

銚子漁港の目の前で60年以上にわたり仲買業を営むカネ八商店。現在、魚の買い付けはこの道37年になる啓太さんの父・都央(くにお)さんと兄・優太さん、そして啓太さんの3人で行っている。祖父から父へ、父から息子たちへ受け継がれる確かな目利きでうまい魚を見定めてきた。

銚子漁港で水揚げされた新鮮な魚を落札したら工場へ持ち帰ったあと、一尾ずつ手作業で箱詰めし、その日のうちに豊洲を中心とする各地の消費地市場へ出荷している。

兄の優太さんは高校卒業後、築地市場での2年間の修行を経て家業に入った。仲買人歴も10年を超えて各地の市場とのやりとりも一手に引き受けており、今ではカネ八商店の中心的な存在だ。

有限会社カネ八商店
買受人章と帽子は銚子の仲買人である証

啓太さんは東京のロボット関連企業に勤めたあと、2年前にふるさとに戻ってきた。前職での経験を活かし、市の漁業に関するPR動画の制作も請け負っている。

「こちらの生活にもすっかり慣れましたね。仕事も、はじめは入札する手が震えていました。高く買っちゃったらどうしようって。でも、兄が『ミスしてもいいから買うことが大事だ。損してもいいからとりあえず落としてみろ』と声をかけてくれたので強気で札を書けるようになりました。あまりに高すぎると『バカ野郎!』って言われるんですけど」と屈託のない笑顔を見せる。

銚子漁港で漁師も仲買人も高齢化が進むなか、30歳前後と若手の啓太さんと兄の優太さんは、それぞれに違った個性を持ち、勢いのある注目の存在だ。

海の変化に対応し、家庭でも新鮮な魚を

有限会社カネ八商店

銚子の沖合は北からの親潮と南からの黒潮がぶつかり、さらに利根川の流入によって日本有数の豊かな漁場が形成されている。銚子漁港ではサバ、マイワシ、サンマといった多獲性魚のほかに、カツオ、マグロ、キンメダイなど約200種類にも及ぶ多種多様な魚が水揚げされる。

啓太さんは「さまざまな魚種に出会えることがこの仕事の魅力」と話す一方、「海が変わってきている」ともいう。

「毎年、冬場には必ず水揚げされていたヤリイカが去年はまったく獲れないんです。この仕事を30年以上続けている父も初めてのことだと言っていました。昨年は銚子漁港全体の水揚げ量も減少し、長い目で見ると獲り方や売り方も変えていかなければいけないなと思います」

カネ八商店では先を見据えた次なる一手として、昨年から仲買業に加えて個人のお客さまへ新鮮な魚を直接届ける方法を模索しはじめた。そこで新たに開発したのが、銚子港で水揚げされた新鮮なスズキ・ヒラメ・マダイと3魚種の切り身を詰め合わせた刺身用フィレセットだ。

有限会社カネ八商店

「普段、僕らがよく買い付けている魚は何だろう?というところから商品開発がスタートしました。スズキ・ヒラメ・マダイは銚子で水揚げされる魚の中でもメジャーで、通年、安定して水揚げがあるんです。かつて、東京で働いていたときの僕がそうだったように、田舎から東京に上京して新鮮な魚が食べたいなと思っている方をはじめ、老若男女問わず召し上がっていただきたいという思いから、刺身で食べられる商品を開発することにしました」

仲卸人だからできる鮮度と品質

有限会社カネ八商店

銚子漁港では月曜日から土曜日まで、毎日水揚げと入札がある。

カネ八商店では、その日の朝に水揚げされた魚を卸売市場で仕入れ、車で5分ほどの工場へ運搬する。新鮮な魚はすぐに、うまみ成分を引き出すために一晩から二晩ほど氷水につけて冷蔵庫で寝かせるそうだ。その後、3枚におろし、皮を引いて冷凍する。確かな目利きで魚を仕入れ、下処理から冷凍までを一貫してスピーディーに対応できるため、水揚げされたままの鮮度を保つことができることこそがカネ八商店の強みだ。

「これまでは市場相手の仕事だったので、自社で加工をすることは去年からはじめた試みです。国内屈指の水揚げ量の銚子漁港がすぐ近くにあり、長年の経験と感覚で培った目利きができるからこそ、新鮮なまま商品を届けられるという自信があります」

文・写真 寺田さおり

後編へつづく