加熱・調理済みの「魚惣菜」ができるまで
取材のこの日、「さばの味噌煮」の製造工程を見学させてもらった。
工場は、第1工場から第4工場まであり、製造ラインは6ライン。ヨーロッパからコンテナで運ばれてきたサバを解凍したあと、サバの骨取り作業と選別は第1工場で、煮魚・焼き魚の生産は第4工場で行っている。
さっそく第1工場の中を見学させてもらうと、サバの骨取り作業をしている最中。手作業と一部機械を使い、骨を1本1本丁寧に残らず取り除いていた。
「サバの骨取りは根気のいる作業ですが、小さなお子さんから高齢の方まで安心して魚を召し上がっていただきたいので、手は抜きません」と松岡さん。
骨取りの作業が終わると切り身をサイズごとに選別。その後、1食ずつパックに入れ、しょうゆやみそをブレンドした調味料を充填する。そのままパックごと加熱したあと、冷却し味を染み込ませるそうだ。
同社では30年以上積み重ねてきたノウハウを活かし、調理不要で、封を開ければすぐ食べられる「即食」の商品づくりを追求してきた。
昔ながらの味と文化を継承していく
銚子は寒暖差が少なく多湿な気候から、しょうゆの醸造に適した地域でもあり、市内にはヒゲタ醤油やヤマサ醤油など、400年近い歴史を持つ工場がある。また、温暖な気候により大根やキャベツなど野菜の産地としても有名だ。
「しょうゆやみそもできる限り地元産のものを使ってブレンドしています。銚子は温暖な気候なので、大根は三毛作ができるんです。地元の大根を安定的に使えるので、ただの煮付けではなく、大根おろしを入れて『さばのみぞれ煮』も作ってみました」
松岡水産では、昔ながらの味付けや食べ方を活かして商品化し、食を通して文化を継承することを大切にしてきた。
「食はもっとも身近なもので、時には目新しいものも良いですが、幼いころから慣れ親しんできた味には格別な味わいがあるのではないでしょうか」と松岡さん。
コロナ禍以降、食品の製造拠点が多くある中国やベトナムなど海外の物価高騰も影響し、国内で生産を担う工場への問い合わせは増えているそうだ。
「栄養価の高い魚の加工品は、おいしければリピートしてもらえます。リピートしてもらえれば販売量も増えますよね。「食」は一生なくなることはないので、事業としてまだまだこれからも伸び代も可能性も大きいと思いますよ」と松岡さん。
今後の展望をたずねると「銚子はイワシがたくさん水揚げされるので、イワシを使った加工商品も作れたら」と話す。
小骨が多いイメージのあるイワシだが、缶詰を作る時の製法である「レトルト加熱」と、同社の製造ラインをドッキングさせれば、骨までまるごと食べられる商品が開発可能なのだそう。新商品の開発にも意欲的だ。
家庭で食事の手軽さと質の両方を叶える
今回、商品開発したという「さばの味噌煮」を早速いただいてみた。
箸を入れた瞬間にすっと身がほぐれ、しっとりとしていてしっかりと味が染みている。しょうゆとみそをブレンドした甘辛い味つけは日本人なら誰もが好きであろう味だ。サバの味噌煮をひとくち口に含むと、びっくりするくらいにご飯が進んだ。
現行の商品よりもサバは小さめと伺ったが、そこまでサイズの違いを感じることなく、一人分の食事として十分満足できるように思った。
コロナ禍以降、私たち消費者も家庭でいかに手軽においしいものを食べられるか、ということを追求してきた。それは、食事の質も手軽さも、両方叶えたいという欲張りな願いだが、そういったニーズにも十分応えてくれる商品なのではないだろうか。
「素材を活かす味はもちろんのこと、安全で、かつ安心して召し上がっていただけるものを作ることをモットーにしています。添加物を使わずに、新鮮な原料をシンプルな味付けで仕上げた加工品を作っていきたいです。栄養価の高い魚を、当たり前のようにもっと食卓で召し上がっていただけたら」と松岡さん。
創業120年を過ぎてもなお、新たな製法や魚種の開拓にも積極的に取り組んでいる松岡水産。伝統的な調理法や味を活かしつつ、私たちが安心して、負担を感じることなく食べられる商品をこれからも作り続けていく。
文・写真:寺田さおり