江戸時代から漁業や太平洋の海運の要として栄えてきた千葉県・銚子市。2022年の銚子港の水揚げ量は、23万6000トンで全国1位を誇る。
JR総武本線の銚子駅から海沿いの道を車で走らせること10分。銚子港の目の前に本社工場を構え、創業120年を迎える老舗の水産加工会社「松岡水産株式会社」を訪れた。
食卓までイメージできる商品づくり
1903年創業の松岡水産株式会社は、銚子港で揚がったイワシを原料として肥料を作ったことがはじまりだ。銚子市は大消費地・東京から近い立地も追い風となり、日本有数の漁業の町として発展してきた。同社も、一時は漁船の製造まで行っていたことがあるそうだ。
1955年には冷凍・冷蔵工場を建設し、工場を拡大。スモークサーモンや煮魚・焼き魚の製造も開始し、徐々に水産加工事業へと軸足を移してきた。
現在はおもに、サバやサワラなどの煮魚・焼き魚、スモークサーモンなどの加工商品を自社で製造し、スーパーやコンビニエンスストア、生協などに卸している。約3,700坪の広大な敷地に建つ本社工場には、従業員135名が働いている。
今回、話を伺ったのは同社の専務取締役・松岡啓二さん。銚子で生まれ育ち、進学を機に東京へ上京した後、社会人3年目でUターン。1989年に松岡水産に入社し、4代目代表取締役、兄の松岡良司さんとともに会社を支えてきた。問いかけに、一つひとつじっくりと言葉を選んで話す実直な人柄だ。
「日本は昔から魚食文化の国と言われていて、魚は丸ごと一匹、家庭で調理して食べることが一般的でした。しかし、平成以降は共働き世帯がふえ、核家族化も進んで、手軽に食べられることが求められるようになりました。魚は骨があって食べづらいとか、調理がしにくいとか、匂いがあるので片付けが大変というように、敬遠される要因がいくつもあります。そこで我々は、魚を『食べやすくすること』を主眼に商品開発をはじめることにしたんです」
煮る、焼く、味つけをする。食べる直前までの手間を一手に引き受け、食卓にのぼるところまでをイメージした商品は、現代の家庭に喜ばれてきた。中でも主力は煮魚だという。そこで今回開発したのが「さばの味噌煮」と大根おろしの入った「さばのみぞれ煮」だ。
規格外のサバを活用した新たな取り組み
銚子市は、東と南に太平洋が面し、北を利根川が流れ、三方を水に囲まれている。国産サバが多く獲れるエリアでもあるが、近年は漁獲量が安定しないことと脂のりにバラつきがあるため、今商品では、より原料の供給が安定しているノルウェー産のサバを使っているのだとか。
「ノルウェー産に限らず、サバのサイズにも大小があるため、商品化をしたときにどうしてもバラつきが出てしまうことが課題だったんです」と松岡さん。スーパーのように一般消費者が手に取るマーケットでは、サイズを均一化しないとお客様に届けられないのが現状だという。
そこで、この現状を打破するために、これまで規格外とされていた小さめのサイズのサバを使って「さばの味噌煮」と「さばのみぞれ煮」の商品化を試みた。
「これまでサイズが小さめのサバは、わざわざ刻んで別の用途に使っていましたが、切り身のまま提供し、当社の基本的な製造ラインの中で新たな商品を作ることができれば生産性も向上すると思ったんです」
同社で使用している一般的なサバのサイズは1食あたり約100gと約80g。今回の事業ではそれ以下のサイズアウトしたサバを使用することで、より買い求めやすい価格設定にした。
「自然が生み出すものなので、魚の生育状況やサイズが異なるのは自然なことなんです。ただ、マーケットで商品として並べるには難しい現状があります。そこで、EC販売に目をつけました。そうすれば、サバをむだなく活用することができるんです」
文・写真:寺田さおり