見た目だけでなく香りも「カニ」に!
「食べられるカニ甲羅」づくりは、仕入れているカニ甲羅と同じサイズのベニズワイガニを原型とし、3Dプリンターを使って石膏の型をつくることからはじまった。
この型に食品の生地を流し込み、加熱して食べられるカニ甲羅をつくりあげる。河村さんは、形や色などの見た目だけでなく、香りも「本物のカニ」のように仕上げるつもりだ。
「一番難しかったのは生地の材質です。『器』として使うので、水分に強いことが絶対条件でした。最初は米粉でつくったのですが、水分に弱かった。そこで試行錯誤し、3ヶ月後にようやくできたのが、小麦粉とコーンスターチなどを使ったものでした。最初のものより厚みも少し加えたこともあり、納得できるものになりました」
そう説明しながら河村さんが見せてくれたのは、甲羅型の最中の皮のようなもの。甲羅の見た目により近づけるため、このあと色を濃くしていくそうだが、それ以外はほぼ完成に近いのだとか。香りについても、ロブスターのペースト等を入れ、カニの香りに仕上げている。
「香りだけでなく味でもカニの風味を感じていただけると思います。試食した社員やお取引さまは、『こんなに美味しいとは!』と驚いていました。カニやエビのスナックのような美味しさなんですよ」と河村さんは胸を張る。
おいしい「グラタン」を消費者に届けたい
実は河村さんのゴールは、「食べられるカニ甲羅」ではない。今回開発を目指しているのは、この甲羅にホワイトソースや具材を詰めた新商品「かに甲羅グラタン」。グラタンはこれまでつくったことがない商品なのだが、量販店では人気商品にもかかわらず欠品が続いていることから、「進化」させて消費者に提供したいと考えたのだ。
グラタンづくりも、甲羅づくりと同時期の今年1月にスタート。ホワイトソースのメーカーと一緒に、カニやマカロニなどを具材に使った、とろみのあるホワイトソースを開発中だという。「本物に比べて『食べられるカニ甲羅』は製造コストが低いので、減った分のコストをグラタンづくりにまわして美味しさを追求したいんです」という河村さんの言葉に、思わず胸が熱くなった。
ちなみに河村さんが目指す小売価格は、なんと1個100円以下。子どもから年配の方まで、だれもが日々の暮らしのなかで買いやすく食べやすい商品にしたいからだ。
この考え方は、宝成食品の他の商品にも反映されている。例えば、コロナ禍の「家食」需要に対応し、量販店向けに開発・販売した「海鮮ばくだん」。牛乳用のガラス瓶に刺身用のエビや味付けメカブなどの魚介類を詰めた商品で、そのままはもちろんご飯にかけても美味しいと大ヒットした。
当初は甘エビ主体の商品をつくったのだが、取引先や購入客からの要望により、「帆立バージョン」「イカバージョン」などシリーズ化されているほどだ。河村さんは「高級感のある食材を使いながら日常的に買いやすい値段がポイント」と話す。
また、同社のカニの商品のほとんどが「むき身」のものだが、それは「子どももお年寄りも、手を汚さずに安全に食べられるように」との想いからだ。
「子どももお年寄りもカニを食べやすいように」と、むき身の商品を製造する。
河村さんのお話を聞いていると、常に「消費者目線である」ことに気付く。そういえば同社のホームページにも、企業理念として「お客様のニーズに全力で応える」という言葉が記されていたことを思い出した。
広がる夢と、明るい未来
このあと「食べられるカニ甲羅」は色味の調整を経て完成となる。製造機械が年内に納品され、「かに甲羅グラタン」は、来年1月の販売を予定している。
河村さんは今後、輸入品の甲羅を使った既存商品もすべて、「食べられるカニ甲羅」に切り替えていくつもりだという。また、型をカニ以外のものにアレンジして新商品を開発したり、甲羅単品を加工業者に販売したりと、新しい商売の構想は広がる一方のようだ。
河村さんのお話を聞きながら、水産業界や食品業界の明るい未来に思いを巡らせた。
文:赤坂環 写真:川代大輔