2023.01.10
福島県2022.1.10
真穴子をいわきの新名物に
~逆境に燃える異端児の挑戦~ vol.02
はまから

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前編はこちらから

商品の狙い

今回はそんな穴子商品を更に進化させ3種類を開発しています。11月下旬、ちょうど試作品が完成したところに伺いました。

・刻み穴子ごはんの素:炊き立てのご飯に混ぜるだけで贅沢な穴子ごはんができあがります!穴子たっぷり、大きめのささがきごぼうもポイント。

・刻み穴子のマリネ:マリネで穴子は斬新です!パプリカ入り、さっぱり、やさしい酸味が穴子によくあいます。

・刻み穴子の佃煮:山椒、鷹の爪、青唐辛子でめちゃくちゃピリ辛!旨味強め、お酒に合いそうです。

はじめは、1枚の穴子の身をそのまま使うことを検討していましたが、その場合、サイズ・量ともに原料の確保が難しく、生産量にもかなり制約が出てしまうため、今回は刻んだスタイルにし、できる限り安定供給できるようにしました。生産現場での食品ロス軽減にも繋がります。
同時に、刻むことで一口毎にふわっとした身本来の食感を楽しめるようになり、結果的に大満足の商品に仕上がりました。

穴子商品の評判は上々ですが、漁獲高はなんと去年の3分の1になっているのだそう。他の魚種同様、その波は年々大きくなっています。水揚げ状況は厳しく、一時は原価割れも経験しました。

「どんどん仕入れ値が上がっていき、販売価格を上げなければならないのは心苦しいです。販路を拡大しもっと売りたい気持ちはありますが、仕入れには限りがあり理想に追いつけないもどかしさがあります」
頭を悩ませながら、ヒット商品を売るための仕組みを考える日々です。

魚食を広げるために

阿部さんは魚食文化の普及を加速させる鍵を“骨との戦い”と考えています。

「消費者はやっぱり食べやすいものを好みます。永遠の課題ですが、骨が当たらない商品を作りたいです。骨に気付かず食べられるくらいの仕上がりを目指しています」

煮たり、揚げたり、骨がないに等しい状態に仕上げる加工技術を日々研究しています。
阿部さんは楽ができない性分なのでしょう。体がいくつあっても足りなそうです。

あんこう鍋セット

最近の人気商品は“あんこう鍋セット”です。実は、先日もテレビで紹介され、なんと1時間で約200パックの注文がありました。こちらも穴子の蒲焼きと抱える課題は同じで、時期によっては原価割れしてしまうのだとか。今後は安い時期に良いものを仕入れ、加工して時期を見ながら出す仕組みを作っていくそうです。

 現在の主力はインターネット販売。福島県産品のおいしさや魅力を発信するオンラインストア“ふくしま市場”では、その品質の高さで人気の地位を獲得しています。

あんこう鍋は、ECサイトの運営会社からの要望を受けて作りました。2人用のコンパクトサイズで扱いやすいこと、地元のシェフと開発したオリジナルの肝味噌のスープが人気の理由です。

「こんなパッケージです」と阿部さんから差し出された商品サンプルを見てびっくり。あんこう鍋のイメージが変わるくらい綺麗にパッキングされていて、これならば手軽に鍋が楽しめそうです。

「すごい!この加工も全部、阿部さんが手がけているのですか?」
なんと、この商品をきっかけにあんこうを捌けるようになったのだそう。困惑した私に、
「ちょっと異常ですよね」と、自嘲気味の阿部さん。

「寝ずに、あれこれ取り組んでしまう性分なんです。昔は寝なくても全然平気でしたが、さすがに最近はそうもいかなくなってきて。続けられるペースじゃなきゃいけませんね」と苦笑。

本業の魚屋・仲買人としての、目利きも周囲に支えられながら確実に力をつけています。

「船によって、漁獲する場所や方法も違いますし、氷の入れ方も異なります。それで大きく鮮度が変わるんですよ。鰓の色や身の状態を見ながら、値付けをして良いものを買うようにしています」と阿部さん。

仲買人の世界は甘くはないと聞きます。私には、柔和な阿部さんが市場で魚の買い付けをする想像ができませんでしたが、新規参入が難しい業界の新参者でありながら、着実に居場所を作っていく阿部さんは独自のやり方、持ち前の温厚な人柄でその場に溶け込む術を身につけ、着実に進んでいきます。

「やるしかなかったからやっています。コロナ以降、赤字経営が続き、融資など個人の借金もあるので、回収しなくてはなりません。投資、投資で借金があるから頑張れるのかもしれませんね」

決して甘くはない経営状態でも、阿部さんは常に挑戦に前向きです。

「やりがいや興味からここまでこれるものなのだと自分でも思いますね」

地域と共に

阿部さんの取り組みは、これだけにとどまりません。地域の水産業に関わる担い手育成を進めるべく、新規の移住促進にも着手。担い手となって新しく地域に来た人材がすぐに町に滞在できるよう、受け入れ施設も整備しました。

「課題があることにはチャレンジしていきたいです。人が入り込みづらいところにこそ入っていきたい。ニッチな仕事に惹かれるのかもしれません」
阿部さんの、果敢な行動原理を教えてもらった気がしました。

魚屋がなかった港町に新設した“はま水”は、地域の魚屋さんとして大事に育てていきたい考えです。一方、ライフワークである地域の活動と両立させるには利便性に欠けることは懸念しています。加えて、阿部さんの故郷、宮城県石巻市への想いもあります。

難しいことにこそ、挑戦したくなる。
「ドMなんです」と笑う阿部さん。
淡々としながらも、フロンティア精神旺盛な阿部さんの今後の展開は未知数です。

久之浜の、いわきの、 “はまから”

阿部さんからの話を聞き終え、漁港からの景色をながめながら2013年、私もLIGHT UP NIPPONの海辺の花火を見に行った時のことを思い出しました。

暮らしの明かりが奪われた港の暗闇に、一際輝く花火―。
一輪一輪の花火の美しさは胸を打つものがありました。そこに集った人々の復興と再生を願う祈りが込められました。
浜との出会いがあの花火大会だったとは、運命的なものを感じます。

ここ久之浜を起点にいくつものチャレンジを打ち上げる阿部さん。

これだけ様々な事業に関わっているというのに、笑顔で「やりたいことはたくさんあります」と話す姿には感服です。まだまだ尽きない、阿部さんの興味がどこまで突き進むのか。
途切れることない“浜から”の挑戦が、花火のように、多くの人の注目の的となるよう願うばかりです。

文・写真(1.2.5.6枚目):石山静香