合食で唯一の冷凍食品の生産拠点
「今期一番の寒波が到来」という話題で持ちきりのこの日、青森県八戸市は、あたり一面が雪景色。
そんな凍てつくような寒い日に向かった先は、八戸市のなかでも沿岸の工業地帯である市川エリア。水産加工工場がひしめく一帯に、その会社はありました。
株式会社合食。
兵庫県神戸市の元町で「砂川商店」としてスタートした同社は、輸入品であるイカの取り扱いなどから徐々に事業を拡大していき、現在では水産・食品・物流の3つの事業を展開しています。
八戸工場は、合食グループのなかで冷凍食品を生産している、唯一の生産拠点。平成8(1996)年、冷凍食品メーカーの有限会社八戸協食から工場を譲り受け、合食フローズンとして新たなスタートを切ります。さらに平成24(2012)年にはグループの経営統合で合食八戸工場となりました。
ISO22000とFSSC22000を取得した工場
八戸工場に到着すると、寒いなか迎えてくれたのは技術本部 商品開発部に所属する小泉悠都(こいずみゆうと)さん。
こちらには第1工場と、平成20(2008)年に増設した第2工場があるそうで、工場内を案内していただけることになりました。八戸工場では食品安全に関する国際規格であるISO22000とFSSC22000を取得しており、出入りの際には厳格な衛生管理を遵守する必要があります。
アクセサリー類はすべて外し、食品工場用白衣とインナーキャップ、帽子、マスクを身につけます。
手洗い、粘着ローラーがけ、長靴の消毒、エアシャワーなどを行い、内部に髪の毛や汚れが持ち込まれないよう徹底。
もちろんカメラやスマホも持ち込みはNG、社外秘の技術も多いため、差し支えない範囲で小泉さんに撮影をお願いしながら案内してもらいました。
工場内に入ってみると、魚介類を焼いたような、香ばしい良い匂いが……
匂いの正体は、焼きイカのようです。八戸港は長らくイカの漁獲量が日本一だったため、焼きイカをはじめとする水産の惣菜を生産しています。
合食八戸工場では、大手スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどのOEM生産も手がけており、生産能力は、最大で月産400トンほど。焼く、煮る、練る、魚の骨まで柔らかくするといった優れた加工技術を持つほか、包装設備を充実させるなどして、他社との差別化をはかっています。
過熱蒸気オーブンで新商品を開発
2022年には、設備投資で過熱蒸気オーブンを導入。東京の食品事業部で、八戸工場の商品全般の企画開発をしている小野萌衣(おのめい)さんは、新設備の導入について次のように話します。
「焼きイカの原料として使っているアメリカオオアカイカは、やわらかくて水を含んだような食感が特徴です。でも、世の中でおいしいとされているスルメイカの焼きイカは、しっとりした食感が特徴で、かつドリップがないのが好まれている。ですので、安価な魚種を使っても同じくらいのクオリティにするのが課題でした。
スチームを使って高温で焼く過熱蒸気オーブンは、ふっくらしっとり焼けますし、ドリップも出にくくなるんです」
合食八戸工場では、1ラインで、1日あたりイカの切り身1トンほどが製造に使用されています。また、過熱蒸気オーブンを使うことで、調理方法の幅も広がるのも利点だそう。
「焼き魚や煮魚といった調理はもちろんですが、過熱蒸気オーブンを使えば、これまではできなかった、野菜と魚を一緒に焼くといった調理もできるようになるんです。せっかく機器を導入するので、有効活用して他にも商品の幅を広げようということになり、2022年9月頃から商品の開発企画がスタートしました」
水産売場の活性化を目指して
そんななか、今回ノンフライのエビフライを作ることになったのは、こんな理由から。
「家計の支出で魚介類が低下している一方で、お惣菜のフライ商品は伸びてきているんです。新しい切り口の惣菜によって、水産売場全体を活性化できたらなと思いました。
ノンフライって、『あまりおいしくない』というイメージを持たれている方もいらっしゃると思うんですよね。おうちでオーブン調理したときに、焦げているところと生焼けなところが発生してしまうなど、調理が難しいんです。合食では、過熱蒸気オーブンを使った独自製法を採用しているので、油で揚げていなくても、おうちでオーブンでただ温めるだけでカリッとサクサクしたノンフライのエビフライが食べられるようになります。
また、高温・短時間で加熱しているので、衣のサクサク食感を出すだけでなく、中のエビ本来のプリっとした食感は残すことができました」
まずは2月にECサイト「うまいもんドットコム」で発売を開始しますが、スーパーで取り扱ってもらえるようになれば、水産売場の活性化にも寄与できるはず、と自信をのぞかせます。今後はノンフライカリカリシリーズとして、白身魚フライ、シシャモフライなどの商品展開を考えているそうです。
文・写真:栗本千尋