2022.11.17
岩手県2022.11.17
ふるさと大槌の海を“そのまま”届ける vol.02
デジタルブックプリント株式会社

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全ては大槌町のために

「人口減少が著しい地域。だから、新規事業がないとますます人が離れていってしまう。何でもいいから少しでも大槌町の特徴を生かせるような商品やサービスができれば」という想いでここまできた福田さん。
「これまでやってきたことが、役に立っていたとはあんまり思わないです。ただことある毎に大槌町を発信させていただきました。直接的ではないまでも、間接的には、多少は大槌のためにはなってるんじゃないかなって。そんな気持ちで続けています」
福田さんの謙虚な姿勢がうかがえます。
「そこまでする必要があるのかな?ってクエスチョンマークをつけながら周りの人たちは見ているようです。でも“想い”で町が何とかなるかもしれないじゃないですか。気持ちってすごく大事だと思うので」
どんなに困難な道でも、人の想いは灯台のように道を照らしてくれるもの。町の復興は、福田さんのような熱い想いに支えられていると改めて感じました。

今回のチャレンジに向けての想い

“恵海(めぐみ)シリーズ”では、三陸産のアワビ、ホタテ、タコ、ホヤに加え、先述の鮭を商品化。今回お邪魔して、まさに「恵みの海からの贈り物」だと実感しました。「ありそうでなかった、食べられる程きれいな海水で調理した魚介」というキャッチフレーズも、大袈裟でもなんでもなく、文字通り。まるで大槌の海をそのまま届けるかのようです。
「アワビが高いものだっていうのは皆さん知ってはいるんですけど、アワビやホヤ、ホタテ等の本当の美味しさをよく知らない人が多い」と、これまでの経験で痛感している福田さん。まずは、たくさんの人に本当に美味しいものを食べてもらうことが目標です。
一方で「今までパッケージをもう一工夫したかった」と福田さん。「卵が先か鶏が先かなのですが、売れないとパッケージにお金かけられないし、パッケージがないと売れないし…」という悩みがあったそうです。
今回はパッケージも一新、「パッケージからも商品の良さをしっかり伝えられるし、拡販にも力を入れられる。とてもありがたいことです」と、開発商品への期待は膨らみます。

地域の魚の魅力―特殊な地形による綺麗な海水が育む魚介―

「ホタテ同士を産地で比較されることはあまりないのですが、実は、貝のサイズは同じでも、身のサイズも味も全然違う。三陸は親潮と黒潮がぶつかって、プランクトンが多い」と福田さん。
特に大槌の場合は、三つの海流が1日の間で入れ替わります。「海水が全部、クルッと綺麗に別な海水に置き換わるような動きをしているんです。なので、海水そのものが特別に綺麗といった自然の強みがある。『美味しくなれ』って言って育ててるわけじゃなくて、そこで育てたら美味しくなってるっていう。これは日本の中でも別格だと思いますね」

元料理人の工場長。「目で食べる」にもとことんこだわれる

福田さんの想いをかたちにする商品開発の肝は、工場長の高橋さん。調理師の資格を持っている料理人。ただ単に食材を加工するだけではなく、見た目も綺麗に繊細に仕上げています。「もっとこういう風にといったリクエストに対しても、何ら抵抗感なく還元してくれる」と、福田さんの信頼も絶大です。
高橋さんのこだわり様は職人そのもの。繊細さに驚きました。アワビのスライスのサイズは本当に絶妙!!“食べたくなる”サイズというのがあるんです。
ホタテにしても、殻をグラインダーで削って形を揃え、ホタテの耳をきれいに洗う仕事の細やかさ。
個体差のある魚介で商品イメージを具現化するのは工場長の手腕でした。
 

近くにいるより会話がはずむ、オンラインでの商品開発

商品開発の際、企画やデザインは福田さんのいる東京、実際にそれを大槌の加工場で再現。IT企業ならではとはいえ、リモートでそこまでできるのはなかなか難しいのでは?「今はネット環境もいいので情報のやり取りには不足を感じないですね。近くにいるよりむしろ会話も多いと思います」
皆が一丸となって目標に向かえる。共感をベースとして、意思疎通しっかりとできる関係性がベースにあるからこそ、オンラインでの商品開発もスムーズに進んでいます。 

未来への展望

これまで震災はじめ様々な困難があったにもかかわらず、事業をコツコツと続けている福田さん。
「やっぱり結果を出せない限り、終わりたくないなと。そうじゃないとうちが何かちょっとした加工品をつくることが誰の役にも立ちませんから」
大槌町のために一生懸命事業を続けてこられた福田さん。水産業自体が衰退している中で、あえて切り込んでいく姿勢には本当に頭が下がります。しかし福田さんには「PRしてやっている」という感じが全くありません。常に「発信させてもらっている」「やらせていただいている」といった謙虚なスタンスで、しかもごく自然。
大槌町という美しい自然環境に育まれ、「海と命懸けで付き合う」仕事を受け継いでこられた方の、凛とした佇まいに、背筋が伸びる思いでした。

♪ “苦しいこともあるだろさ 悲しいこともあるだろさ だけどボクらはくじけない 泣くのはいやだ 笑っちゃおう 進め! ひょっこりひょうたん島” ♪ 
歌詞:ひょっこりひょうたん島 の一部抜粋
作詞者:井上ひさし、山元護久  作曲者:宇野誠一郎

町の正午を告げる“ひょっこりひょうたん島”のメロディーを聴きながら、清々しい気持ちで大槌をあとにしました。

文・写真:石山静香