2022.11.24
宮城県2022.11.24
人と海の未来をサメに託す
〜気仙沼発 機能性健康食品の誕生〜 vol.02
株式会社阿部長商店

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エビデンスを元にしたプロモーション

「ちゃんと美味しさを知られてないんです。サメ肉がどういうものかしっかりとお伝えすることが鍵。まずエビデンスをしっかりと示し、成果を出していくことが重要だと思っています」情熱だけではなく、科学的根拠に基づき、地に足のついたマーケティング戦略で販売促進を目指します。

伝統的な発酵食品、塩麹の力

商品開発上、一番の課題であり重要なポイントが、臭みをとり、しっとりと仕上げることでした。
「いろいろ試した中でも塩麹は効果てきめんでしたね。短時間で臭みが無くなり、味も良くなる。自然の発酵の力を実感しました」
発酵大国日本。添加物を使わず、シンプルな素材で仕上げたピュアでヘルシーな肉は、海外でも好意的に受け入れられる可能性を感じさせます。

サメ肉の可能性
添加物や栄養素を一切加えず、日常の食生活ではとりにくい栄養も補給できるサメ肉。しかも高タンパク質・低脂質、低糖質で低カロリーなのので、ダイエット中の方やアスリート、そして貧血や鉄分の不足が気になる方にぴったりな食材です。
「栄養価が高いし安全なので、育ち盛りのお子さんにもよさそうです。お肉が続いたから、今日はサメ肉ね、といった感じで。そのままでも食べられます。
料理にしてもクセがないので使いやすいと思いますね。柔らかいので介護食としてもお使いいただけるのでは」
水産資源は文字通り水物。それでも安定したサメという魚種が広く流通するようになれば、消費者だけでなく漁師にとっても魅力的な魚種となって漁獲量も増えるでしょう。水揚げが多くなれば価格も抑えられる。自然の資源を生かした循環に大出さんの夢は膨らみます。
「将来的にはサメ肉を使ったデザートのような、ギャップ感を出せるような製品を開発できれば面白い。ゆくゆくは輸出もしたい。気仙沼産のサメが世界で食べられるってめちゃくちゃ大事だと思います」大出さんの目はすでに世界を見ています。

気仙沼の海風に吹かれて

取材の間、開発担当の熊谷さん、同部署の尾崎さんをはじめ、周りの人たちに声をかけ、意見を聞いたり…と、どんどん巻き込んでいく大出さん。

仕事が趣味なんですよ。役に立って『ありがとう』って言われたら嬉しいじゃないですか」全力で仕事を楽しんでいるのが伝わってきます。
「自分の経験から、10年先を考えられる先輩がいることは大事だと思っています」と大出さんはいいます。楽しそうに仕事をする姿は眩しく、若手から見てもかっこいい先輩のはず! 
大手さんは埼玉出身。尾崎さんはデザインを学び、県外から新卒で入社した若者。自社製品を扱い始め、ブランディングが成功しつつあるからこそ可能なリクルート。

仕事を通じ、人間が成長するための土壌や環境がある。そしてなにより育ってくるものを見守り、導く人材がいることは、一企業にとどまらず、地域にとっても新しい風となり、多様な豊かさをもたらしてくれそうです。
「一流企業=都会で就職」のイメージを過去のものにする企業文化に触れ、かつては地元を出て都会に行きたかったタイプの私も、こんな就職がとても羨ましくなりました。
阿部長商店というフィールドから世界を目指し、信頼し高め合いながら成長する様子がとても心地よく、気仙沼の海風と相まって、爽やかな時間を過ごすことができました。
石巻出身の私も名前と所在地だけは昔からよく知る阿部長商店。
取材にうかがって初めて、なごやかで風通しよく、時流の変化に対応する企業だと知りました。
「気仙沼お魚いちば」で“気仙沼港町のパスタソース”を大量買いし、大出さんからいただいたできたてのギフトボックスを早速家で使わせてもらっています。
そして、サメの魅力やパスタソース、阿部町商店のことをあまりにも熱く語った結果、周囲からは「出身、気仙沼だもんね」との誤解を招く事態に。
サメも、阿部長商店も、知ればほかの人に伝えたくなる魅力満載。どっちも覚醒のときは近いに違いない。

文・写真:石山静香