2022.11.22
宮城県2022.11.22
人と海の未来をサメに託す
〜気仙沼発 機能性健康食品の誕生〜 vol.01
株式会社阿部長商店

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ヒレだけじゃない、フカ=サメの魅力 
宮城県の気仙沼で水揚げ日本一の”モウカザメ”。サメのイメージと違い桜色で綺麗な身で、煮たり焼いたり、粉付けにして揚げるなど、気仙沼で古くから愛されてきた食卓の定番です。

サメの水揚げ量日本一の気仙沼港

カツオ(2021年度時点)やメカジキ、そしてサメの水揚げが日本一の気仙沼港。中でもモウカザメの水揚げは年間3,385トン(令和3年実績)。『気仙沼=フカヒレ』の図式が定着していますが、“フカヒレ”のフカとはサメのこと。ヒレ以外の部分も地元でしっかり食べられてきました。
気仙沼が水産で栄えたのには理由があります。「世界三大漁場の三陸沖があって、市場がある。それは、そこに買い付けに来る水産加工業者がたくさんいるから」と話すのは阿部長商店・大出秀行さん。
気仙沼で昔からサメ漁が行われてきたのも、地元の水産加工業者がサメ肉を余すところなく使ってきたから。食用以外にもコラーゲンを美容素材として加工するなど、さまざまな用途で利用してきました。サメ漁専門の漁師さんもいます。「サメを気仙沼港に持って行けば値段が付く。我々のような水産加工業者がちゃんと買うということは、製品化する、あるいは出口がある、ちゃんとチャンネルを持っているということなんです」と大出さんは水揚げ日本一の背景を語ります。
大型船が集まる港には宿泊施設や燃料補給だけではなく、魚の餌も必要です。気仙沼や近郊の港には、餌になる新鮮なカタクチイワシなどを供給できる環境も整っています。

震災で変化する阿部長商店

大手水産会社向けに水産物と一次加工品を出荷していた阿部長商店は、震災で取引先がゼロになりました。企業として復興し、雇用を守るために、付加価値を持つ自社製品の開発に舵を切ります。元々保有していた保管倉庫や加工場を活用し、B to C向けの加工製品を製造し、販売を始めました。
元々水産業と観光業を生業としてきた阿部長商店。観光業では、ホテルや飲食店等自前で販売チャネルを有し、マーケティングまでできる環境にあります。加えて既存のネットワークも生かしながら、「自社商品」によるリブランド化に成功。市場を広げ、順調に売上を伸ばしています。

「水産と観光の融合」

コロナや水揚げ不足等さまざまな社会の変化に対応するためにも、社内でより横連携が重要という認識は強くなっています。魚食文化を取り戻すべく、震災直後に掲げた目標は「水産と観光の融合」。自社製品の開発を通じて、水産と観光分野の連携は加速。

気候変動にも季節を通じてあまり影響がないサメの水揚げ量

近年気候変動により、三陸沖で安定的に獲れてきたサンマやサバの不漁が続いています。水揚げ量が比較的安定しているイワシも、年々サイズが小さくなってきています。逆に今まで獲れなかった魚種がごく稀に大量に水揚げされることもありますが、毎年安定的に獲れるわけではないためあてにはできません。
そもそも現在の全国的な魚の水揚げ量は最盛期の三分の一に減少しています。そのような中、水産業全体が変革を迫られており、加工業者も、原料の見直しや新たな商品開発が急務になっています。
そんな中、サメは通年安定的に獲れる魚種として近年の注目株。
「水揚げ量が安定しているのであれば、しっかりと使っていかなければなりません。サメ肉の栄養価の高さと、淡泊でさっぱりしていて上品な味わいを多くの方に伝えていきたい」大出さんはサメの市場拡大に取り組みます。

「フカカツ(復活)気仙沼プロジェクト」

2022年1月。阿部長商店は、気仙沼市と吉本興業株式会社(住みます芸人・けせんぬまペイ!)と提携し、3者で気仙沼の海産物を使用した新商品開発とPR業務を共同で行う事業「フカカツ(復活)気仙沼プロジェクト」をスタートさせました。
「サメを全国区にする!」ことを目的とした画期的な試みです。
フカ肉を使った「フカカツ(復活)サンド」等、サメを新たな観光資源にすべく活動しています。このプロジェクトから生まれたアイディアをもとに、「サラダシャーク」が誕生しました。

サメ肉のイメージ
安定した漁獲量、高い栄養価と優等生な魚肉、サメ肉。ところが一般にはその良さが伝わっておらず、においが気になるなどのマイナスイメージが先行しています。
「食わず嫌いも多いのでは」と大出さん。
実際のサメ肉は調理方法で臭みも完全に取れます。さらに軟骨なので骨を取る必要がなく、肉も柔らかく、淡白であっさり。クセも手間もない、高タンパク素材としてもっと注目されても不思議ではないポテンシャルです。

全国的に広く使われてきたサメ肉

全国的にもサメ肉は、はんぺんやすり身など、古くから加工品の原料として使われてきました。粘り気が少なく淡白なため、加工しやすかったからです。
また、一部の地域でサメ肉は、モロ料理(栃木県)、ワニ料理(広島県安芸地方)等と呼ばれ、愛されてきた歴史があります。栄養豊富で扱いやすいため、学校給食に使われることもあります。

機能性食品としての価値

とはいえ、これまではあまり表舞台に立つことのなかったサメ肉。
「サメ肉について色々と調べていくうちに、栄養価と機能性が非常に高いことがわかってきたんです。阿部長商店は飲食やホテル経営といった観光業だけではなく、水産加工業として商品開発にも取り組んできたので、アスリート向けのサメ肉を使ったサラダチキンのようなものはできないかと住みます芸人“けせんぬまペイ!”さんからアイデアをもらいました」と大出さん。
大出さんは元々海外で、和牛などの日本の食・食材を紹介するプロモーションや販促の仕事に携わってきました。その大出さんのアンテナがサメ肉の新たな展開を予感します。
サメ肉は低カロリー、高タンパク、必須アミノ酸、EPA、鉄分、コラーゲンを有した可能性を秘めた魅力ある食材。タンパク質は20mg/100g。なにより鉄分がダントツに多いのです。100g あたり約4.6~~5.1mg。鶏肉は1mg 、鉄分が多いとされている牛のレバー肉の4mgを超える鉄分含有量。魚ではトップクラスといわれてきたイワシでさえ2.3g。サメ肉、一躍、鉄分界の頂点に君臨です。
機能性に優れており、ヒレや皮、軟骨などにもコラーゲンなどの滋養が豊富。余すところなく活用でき、安定供給可能で環境にもやさしいサメ肉。
食べない理由が見つからないレベルです。

サメ肉を使ったアスリート向け機能食品の誕生

今回開発中のアスリート向け機能食品「サメシャークmeZame(めざめ)は、サメ肉のにおいや、用途不明な魚というイメージを覆しにかかります。
栄養士やアスリートが専門的な観点からもアドバイスを行い、栄養価を分析。エビデンスもしっかり備えて、「なんかよさそう」から一歩進んだ機能性食品です。

ネーミングイメージ

「タンパク質を摂ることで、筋肉が目覚める。
鉄分も血液に酸素を送る原動力になる。
体のパワーが『目覚める』という意味合いも込めて、けせんぬまペイ!さんが商品名を考案しました。やっぱり芸人さんですよね。」と大出さん。
サメだけに、メザメ。
デザインは数パターンで作成中。1番人気は、黒ベースに文字が並ぶシンプルなデザイン。白い壁の無駄のない部屋在住、自己管理の一環として筋トレも欠かさないミニマリストさんに似合いそう。お客様を想像できる商品内容とパッケージに、イメージは膨らみます。
「どんなシーンで手にしてもらえるかを徹底的に考えました。例えば、高校生がこれ持ってたらかっこいいとか。アウトドアショップや登山グッズ売り場、マラソンやウォーキングなど、荷物を持っていけないけれど、栄養補給したいというシーンにもいいと思います」
今は要冷蔵ですが、常温品にできるよう、さらなる改良を続けています。気軽に持ち歩けるようになれば、ヘルシーな魚のエナジーバーになりそうです。
今年若手女子社員を中心に商品企画とデザインをした「パスタソース」のギフトボックスが出来上がったばかりということで、試しにセットしてみたのがこちら。
若い感性にどうアピールするか、楽しげに想像を膨らませる皆さん。
“meZame”は、開発者たちが商品を作るときのワクワク感や妄想力を目覚めさせるスイッチでもありそうです。

文・写真:石山静香

後編へつづく