“威張らない”貿易会社
2013年~16年、及び20年は「楽天市場」の海産物ジャンルで「トップオブザイヤー」を受賞。カニの価格高騰などが影響して順位を下げたものの、上位を保っています。課題はこれをいかに維持するか、でした。
インターネットの市場において、自社製品だけでは品数が到底足りません。取引先を毎年拡大、商品数も増やしながら、常に商品を入れ替えるのが鉄則。地道な努力が、楽天で高い評価の口コミを相次いで獲得、好評価ショップを確立することにつながっています。
「いいもの作っているね。売らせてほしい」
塩釜の水産加工会社は、自社販売事業がなかなかうまくいかないケースもあり、複数の依託販売も受けるようになりました。大切にするモットーは「威張らない会社」。「威張らず謙虚に、礼儀正しく」という会社の行動指針は、社員の業務評価制度にも取り入れました。仕入れは偉そうにしがちだと、商社マン時代の営業経験で学びました。「威張っている仕入れ先は嫌いだし、ああはないたくないという反面教師な側面もありましたね」
趣味は剣道。365日、欠かすことなく練習に没頭した学生時代を思い起こしながら、今も朝から素振り練習に向き合います。竹刀の軌道を考えながら、丁寧に一振り一振り。地道な練習も、向上心を持って取り組めるようになったのは、年の功なのだとか。礼に始まり礼に終わる武道の儀礼は、生き方の指針でもあり、商売姿勢にも生きているようです。
塩竈のものを売り、地域の活力に
昨今、水揚げ量の減少、人件費や燃料の高騰で水産業界の経営は非常に厳しい状態が続いています。地元で倒産した企業も少なくありません。そんな中、地元活性化の新たな取り組みとして、塩竈市水産振興課とタイアップした企画にも取り組みました。当初、地元のつながりはあまりなかったというYAMATOですが、自治体にはこれまで交流のない会社とも繋げてもらい、昨年は塩釜の特産品10品を詰めた「塩釜福袋」を、500セット限定販売し、完売することができました。
「地元のものを売る会社になりたい。お客さんは国産を求めており、少しずつ取り扱いを国産品に置き換えていっています」
今回の商品「簡単調理!縞ホッケ“骨取り”塩焼き」
YAMATOの主力商品の一つ、厳寒のアラスカ湾で漁獲され船上で凍結した鮮度抜群の縞ホッケ。ベトナムや中国で骨取り加工をしてあり、食べやすさ抜群。湯煎または電子レンジの簡単調理で食べられる点が特徴です。焼き工程は石巻市の本田水産に依託し、身はしっとり、皮はパリっと仕上げています。工場に足を運んだ際、金華サバの焼きの仕上がりが完璧だと感激し、その場で依託を即断したとのこと。骨がないため、キッチンばさみだけでも簡単に調理が可能です。1番簡単なのはレンジですが、少し手を掛けられる場合は、全体に熱が行き渡る湯煎がおすすめ。フライパンで蒸し焼きにするのも美味しく仕上げる方法の一つです。
取材中「試食にどうぞ…」といただいたホッケにびっくり!肉厚で、本当に“焼きたて”のよう。もちろん、煙は出ないので、焼き魚の後の臭いが気になる方にも嬉しいポイント。最近はサイズの小さな商品も多いですが、ボリュームのあるサイズなので1枚をキッチンばさみで切ってお弁当に…なんて使い方もできそうです。
「魚嫌いをつくらない」貿易会社のプライド
「日本酒が好きです。日本酒には、やっぱり魚ですよね」。晩酌の話を嬉しそうに語る城太郎さんの魚愛がにじみます。食べやすさが売りの新商品には、魚食文化を取り戻すきっかけづくりにしたいとの思いが込められています。魚を焼きたくない主婦の味方となり、魚嫌いの子どもを作らないように―。“魚を食べる第一歩となる食材”を“YAMATOの地魚”として広めていきたい想いを持っています。
サバでスタートした骨取りシリーズは、タラなど他魚種にも拡大展開してきました。オンラインショップにはマイナス面も明記するのが信条です。骨取りをした魚が、骨の有るお魚にうま味で劣る点を伝えています。正直な商売で、送料分が割高になってもリピーターになってもらえているそうです。
「骨付きの魚が美味しいと思っていましたが、一度骨なしに慣れると、骨は面倒かもしれません。子どもたちが、その時点で魚嫌いになってしまうのももったいないので。とにかく、お子さんに食べさせてあげてほしい」と語る都留さんは一人娘の父。父親の顔が垣間見えました。
さらなる飛躍
「せっかく地元・塩釜に帰って来ましたからね」生まれ故郷への思いは、地元貢献の原動力になっています。
元々はあまり付き合いのなかった地元業者とも酒を酌み交わす“会合”に時折繰り出すようになりました。商社マンらしく世界を股にかけるフットワークの軽さを感じると同時に、馴れ合いは敬遠する付き合い方は、軽快そのもの。バラエティーに富んだ事業展開も含め、このバランス感覚が行き届いた経営手腕が都留社長の強みなのだと感じました。今後の事業計画にも、そのセンスが光ります。
人口減が進む日本市場だけを見ていては、将来どこかで行き詰まり兼ねません。会社としては、地元産取り扱いの強化と共に海外輸出展開にも注力し、しっかりと新しい販路開拓を進めていく考えです。来年には輸出規格に合わせ、衛生管理基準を高水準に引き上げた工場の新設も予定しています。
「地元の魚を含めた国産の魚の原料凍結事業、加工事業を強化し、いいものを少しずつ作っていきたい」。古くから生マグロの街として知られる塩釜で、新たに宮城県産サーモンやいくらの取り扱いも始めます。マグロ以外の水揚げを増やそうという取り組みのため、塩釜漁港への漁船誘致にも積極的な姿勢です。
今後の展望を問われた都留さんは「壮大なことは考えていないです。日々の業務を良くしていくことの積み重ねですからね」。最後まで謙虚な一言に、威張らないひた向きな商売の在り方、その着実な進化を垣間見た気がしました。
文・写真:石山静香