2022.11.21
宮城県2022.11.21
「魚食」はじめの一歩に
〜謙虚に、礼儀正しく、世界に挑む〜 vol.01
株式会社YAMATO

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宮城県塩竈市にある株式会社YAMATO。社名に馴染みはなくとも、この会社のオンラインショップ画面に見覚えのある方は相当数いそうです。

水色の背景に、黒と赤で「海の幸なのにYAMATO」。大手オンラインショッピングモールで数々の賞を獲得する業界のトップランナーです。大ぶりのカニを抱えそのボリュームをPRするのが、代表であり店長を務める都留城太郎さんです。

創業者の父、ECの先駆けに

大分県出身の父・都留昌三さんは東京水産大学を卒業後、東京に本社がある漁業会社に就職しました。国の政策で、日本近海からロシアやアラスカなど北洋海域の漁場に、操業区域を転換した底引き網漁の漁業基地となった、当時の宮城県塩釜市に新たな拠点を作るべく、東京から単身で現地入り。事業所を立ち上げたことが塩釜との縁の始まりです。

遠洋漁業で培ったコネクションを活用し、当時の勤務先から独立する形で起業。漁業ではなく貿易事業で始動しました。その後、世界中の水産資源の調達ルートを礎に、三陸の港町から「安心・安全・うまい」 海産物を全国に届けることを目指し2005年に創業。それが、株式会社YAMATOです。ベーリング海やアラスカ湾で操業する米国水産会社から水産物を直接買い付けています。よく見るとカラフルなパレット、英字ラベルが貼られた段ボール、壁にかかる日本画など、至るところに世界規模の取引の片鱗が。

中国の提携工場で骨取り、フィレ加工等をした業務用の輸入販売が主軸ですが、近年は一般消費者向けのネット通販事業も好調。都留さんは2017年から社長を務めています。

インターネット販売は、ひょんなことから始まりました。仙台市の楽天球場脇の出店に出展、「海の幸なのにYAMATO」として小売りに試みました。この時、父・昌三さんが「楽天は何の会社だ」と都留さんに問いかけました。

「ネットでものを売る会社だ」と説明すると、昌三さんは楽天で商品販売することを即断、男性新入社員に指示します。当時はまだECサイトが出始めたばかり。昌三さんがどこまで理解していたかは定かではないといいますが、その経営的直感は的中。

新人の彼がたった1人で始めたのが楽天市場「海の幸なのにYAMATO」の店舗です。

主力商品はボリューム自慢のタラバガニ。独自ルートで直接買い付けたロシア産を船上でワンフローズン※1にした高鮮度商品です。凍結したままのカニを手作業で分けて販売するため、手間がかかる上、カニ脚が肩から外れてしまうこともあり、見栄えで劣ることもありますが、おいしさと食感の差は歴然。丁寧な説明でお客様の理解を得ています。かつてはスーパーでは取り扱われなかった「骨取り」の魚も、最初はインターネットでの販売だったそうで、発売直後から瞬く間に評判となり、今では定番の一つに成長しているそうです。

始めた頃は販売利益を上げられるほどではなかったものの、ようやく年間で利益を得られるようになった頃、立ち上げの担当者から店長を引き継ぎました。品質の高さとお買い得感が分かりやすいネットショップは、業界内でも注目を集めています。

※1ワンフローズン加工:水揚げ後の生の原料をそのまま凍結させたもの。一般的に水産加工品は、冷凍原料を加工した後に再凍結するツーフローズン(2回凍結)が多く、ワンフローズンの方が高い品質を保てる。

震災を機にYAMATOに入社

都留さんは東京の大学を卒業後、航空部品を扱う専門商社で15年ほど勤務。「元々は会社を継ぐつもりもなかったんです。妻の実家である東京に家を建てて住んでいました」

ある時、高齢になった父から「後継者、どうしようか」と酒の席で相談されました。

最終的なきっかけは東日本大震災。「帰って、地域に貢献できるような仕事をした方がいい」。2013年に塩釜に拠点を移しYAMATOに入社しました。「家を継がないと言って結婚したんですよ。妻には『騙したの?』なんて言われてね」と、穏やかに笑う都留さん。

会社は津波の直接被害を受けずに済み、程なく業務を再開。地域の漁業は復旧に時間を要する中、インターネット事業が軌道に乗り始めていたことが会社の支えとなりました。

当初から、商社マンとしての経験は、扱うものが変わっても必ず生かせるという確信がありました。「現会長である父は、船乗り経験を持つ川上担当。私は川下です」会長は何でもやってみようと飛びつくタイプ。全く性格も異なり、それぞれの強みを生かして経営に役立てています。

ネットショップ店長を継ぎ、人柄で売る

YAMATOの由来は、貿易企業の出資者である山田さん、そして都留の名字からとった“山”“都”で“ヤマト”です。会社の成り立ちは「魚屋でなく、あくまでも貿易会社」この特性を強みとして、独自の販売戦略を構築してきました。本業は会社の屋台骨として安定した貿易事業を展開し、当初投資の位置付けだったECも新たな事業の柱として成長しました。そんな社長の朝は、メールマガジンの執筆に始まります。

“【今日も当店のメルマガにお越し頂きありがとうございます】”

こんな書き出しに始まるメルマガ配信は、365日ほぼ毎日続け、なんと10年目!

「最初は、ほとんど私の日記なんですよ。くだらないことでも何でも毎日配信しています」

“【先日、松任谷由実さんのベストアルバムを買っちゃいました。しかし、基本的にせっかちな私、収録された50曲をじっくり聴くなんてできません。自分好みの曲だけを厳選し、1時間少々のCDに作り直しました。選曲も曲順も練りに練り、かなりいい感じに仕上がったと自己満足しております。】”

“【秋の社内健康診断が行われた後、当店でも平均で4~5人の特定保健指導の対象者に通知が来ます。私は、常連組の筆頭という不名誉な判定が下されております。対象となった部下には厳しく指導せねばなりません。「君たちは自己管理についてどう考えているんだ!そんなことじゃ、良い仕事なんてできないぞ」っと…。説得力がないでしょうかね。今日もオイシイ情報満載でお届けします!…】”

綴られるのは、城太郎さんの日常。サウナ好きということも、メルマガファンには浸透しているそうです。「今度の出張先ではサウナないんだってねぇ」催事でお客さまから声をかけられることもあるとか。

インターネット販売でありながら、人が見える販売を意識しています。誰から買うのかを重視してもらいたいと「売ることよりも、知ってほしいとの想いが強いです」と城太郎さん。

必ずメルマガを読むと言ってくれるお客さまもいます。日々の積み重ねが徐々に反響を呼び、楽天サイトでメールマガジンの登録者は7万人、他のサイトを含めるとその数はなんと20万人。業界屈指のインフルエンサーに間違いありません。

「ほぼ日イトイ新聞」で知られる糸井重里さんのファンでもあり、「負けないように毎日書こう」というのが密かなモチベーションだということも、こっそり明かしてくれました。

後編へ続く

文・写真:石山静香