2023.11.8
福島県2023.11.08
いわきの郷土料理「うに味噌」を
シンプルでやさしい家庭の味でお届け!〈前編〉
有限会社おのづか食品

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有限会社おのづか食品

「有限会社おのづか食品」は福島県いわき市で50年以上続く業務用食品加工会社だ。老舗旅館やホテルの「もう一つの厨房」として、いわき市の観光業を下支えしてきた。東日本大震災後は自社ブランドのお惣菜「田舎のごちそう」シリーズをリリースし、時代に合わせたサービスの転換を図っている。

そしていま、食のスペシャリストから熱い視線を浴びているのが、贅沢なご飯のお供「浜の味 うに味噌」だ。商品開発に携わった小野塚大(まさる)社長は「うちの看板商品として、あせらず大切に育てていきたいです」と語る。

いわきの郷土料理をシンプルな味付けで再現

有限会社おのづか食品
おのづか食品の新商品「浜の味 うに味噌」

舌にのせると口いっぱいに広がる磯の香り。やさしい甘さの卵、程よい味噌のコクが後を引くおのづか食品の「うに味噌」は、老若男女に愛される味だ。ご飯のお供に、おにぎりの具に、パスタに、酒の肴に……さまざまに応用でき、その贅沢な味わいに思わず頬がゆるんでしまう。

有限会社おのづか食品
うに味噌はパスタにもぴったり

同社の「うに味噌」は、食にこだわりのある中高年をメインターゲットにした和惣菜「田舎のごちそう」シリーズの新商品として、テスト販売を経て、2023年夏から本格的に店舗・オンラインで販売がスタートした。ウニ・アワビ漁が盛んないわき市の郷土料理で、高級食材のウニを少しでも長く、おいしく保存するための知恵が詰まっている。

こだわりは、ウニの配合割合だ。おのづか食品の「うに味噌」では、ウニが原材料のトップ表示。丁寧に下処理した黄金色のウニに福島県産の新鮮な卵を合わせ、味噌、みりん、酒とごくシンプルなレシピで仕上げた。

完成したのは贅沢ながらも、素朴でほっとする「家庭の台所の味」。創業以来、守ってきたおのづか食品の味だ。この味は、どのように生みだされるのだろうか。

「派手さ」よりも「素朴なおいしさ」を貫いて

おのづか食品は、小野塚社長の父・興(こう)さんが昭和40年にいわき市常磐湯本町で創業した。

当時、町は主要産業だった石炭の採掘が下火となり、「常磐ハワイアンセンター」(現在のスパリゾートハワイアンズ)を中心に据えた観光業に大きく舵を切ったばかり。父は、常磐ハワイアンセンター創業第一期の料理人として腕を振るった。その後は、周辺の旅館・ホテル向けのお惣菜を作り卸しはじめたそうだ。

有限会社おのづか食品
昔から変わらない20ℓの大鍋を使って手作業で「台所の味」を再現している

歴史ある温泉街の観光が一気に花開いていくなか、同社が大切にしたのは、派手さはなくても素朴でおいしい「家庭の味」だ。多くの同業社が食品の製造過程をオートメーション化して大量生産に乗り出すなか、手作りにこだわり、高品質・小ロットからの商品づくりを続けてきた。

「機械だよりになると、食材の状態に合わせた細かい調整ができず、家庭の味が失われてしまうんです。なので、うちではいまでも大型機械の導入は最低限で、保存料や着色料もほとんど使っていません。ごく普通の調理器具で、最低限の調味料で作っています」と小野塚さん。

東京の日本料理店で経験を積んだ小野塚さんは、20代からおのづか食品の調理場に立っている。現場の調理師たちと信頼関係を築きながら取引先を増やし、国内大手航空会社の機内食に採用されたこともあるそうだ。

46歳で会社を継ぎ、現在は、妹で事務・経理を担当する専務取締役の村田和美さんと2人で会社を切り盛りしている。

この10年あまりは、何度も難しい局面があったというが、社内はどこかアットホームで温かい雰囲気だ。

有限会社おのづか食品

東日本大震災で受けた大ダメージ

小野塚さんが「自分たちの地盤が突然、ゼロになるような経験だった」と振り返るのが、2011年3月11日の東日本大震災だ。

震度6弱の揺れで加工場が全壊になり、移転を余儀なくされた。取引先も建物に大きな損害を受け、常磐湯本町の温泉街では水道やガスなどのライフラインがストップした。施設が復旧しても、原発事故の影響で、長期間にわたり旅館・ホテルの通常営業ができず、先の見えない不安な日々が続いた。

おのづか食品は、幸いにも高齢者施設への介護食の提供を行っており、宮城県の老舗旅館からも注文を受けながら、地元観光業の回復を待った。

有限会社おのづか食品
震災後の厳しい日々を語る小野塚社長

「当初は、営業が再開すれば注文は右肩上がりになると思っていたんです。それが時間が経つに連れて、『7割くらい戻るかな』と話すようになり、そのあとは『5割』、最後は『3割でも戻ってくれれば……』と希望がだんだん尻つぼみになっていきました。最終的にかつてのお客さんが戻ってくれたケースはゼロで、現在の取引先のほとんどが、震災後の新規のお客さまです」

原因は複合的だが、震災が引き金になったことは間違いない。また、インターネットの普及で顧客のニーズが多様化したことも要因の一つだ。以前なら当たり前だった1泊2食付きプランを利用する客は少なく、素泊まりプランや朝食プランで、夕食後は街歩きを楽しむ客がふえている。さらに、2019年末からは新型コロナウイルスの流行で観光業が再びダメージを受け、もはや取引の再開は見込めなくなった。

文・荒川涼子 写真・奥村サヤ(2・3・4枚目事業者提供)

後編へつづく