魚の旨味を逃がさない
干物の製造は、冷凍状態で仕入れた魚を解凍することからはじまる。休暇の前など量が多いときは1日に8〜9トンもの魚を氷水の中で手作業で崩しながら解凍するそうだ。
「解凍し過ぎてしまうと、仕上がるまでに魚の身が柔らかくなりすぎてしまいます。魚の種類や量に応じて、ちょうどいい塩梅で解凍を止め、次の工程に移す必要があるんです」
解凍が済んだ魚を包丁で手早く開き、手作業で内臓を取り除く。流水で汚れを洗い流したら、しょう油と塩水、昆布だしを混ぜた漬け込み液に漬け込む。
「その日の気温・湿度によって乾燥のしやすさは変わりますが、1〜5時間程度、冷風乾燥室で干します」
魚種や大きさ、脂の乗り具合で、漬け込む時間も乾燥する時間も調整しているのだそう。水分を抜きつつも、魚の旨味は逃がさない。
さらに、少しでも鮮度のいい商品を届けられるよう、干物加工にはあまり使われることのない「トンネルフリーザー凍結(急速凍結)」を使用し、1時間ほどで急速冷凍している。凍結するまでの時間が短いと魚の繊維の破損が少なくなり、食べたときの食感が変わってくるのだそうだ。
「鮮度を保ったまま仕上がるように、処理を早く、凍結も早く行っています。加工を開始したその日のうちに最終工程まで仕上げることは、ヤマヘイフーズのこだわりです」
昆布だしへのこだわり
ヤマヘイフーズの干物は、しょう醤油、昆布だし、塩水と、いたってシンプルな原材料から作られている。さらに、昆布だしは自社で製造するというこだわりようだ。
北海道・礼文島産の昆布を仕入れ、2年ほど寝かせたのち、自社で炊き出している。白い粉が吹くまで寝かせることで、旨味成分を十分に引き出し、ぬめりが少なく、澄んだ出汁がとれるのだそう。
さらに、利尻昆布は香り高く、旨味が引き立ち、魚の食感まで良くなるのだとか。魚特有の臭み消しにも役立ち、昆布の効果は計り知れない。
「ちょうどお歳暮の時期なのでギフトにもおすすめです。年配の方であれば『醤油干し』というと何となく商品の雰囲気や、おいしさが想像できると思います。骨が付いている魚を食べる機会が減っているという若い人たちにも、うちの干物をぜひ食べてもらいたいです」
和洋問わずアレンジは無限大
まずはシンプルに焼いてみる。
焼いている間にもホッケの身の上から脂がじんわりと滲み出てくる。
しょう油でしっかり味をつけているため、そのままでも十分おいしく食べられるが、お好みで大根おろしやすだちを添えてもいいだろう。
「表面はパリッとしていて、身はふんわりとしてきたらいい頃合いです。魚の身をほぐしてごはんに乗せ、お茶をかけてお茶漬けにしてもいいですね。フードコーディネーターの方とレシピを開発していて、そのときに試したパスタもおいしかったです」と青砥さん。
さらりとした脂でプリプリとした弾力のある食感が特徴だというアカウオは、丸ごとお米と一緒に炊いて炊き込みごはんにした。
骨から身離れがよく、淡白でクセのない魚なので、ごはんとの相性も抜群だ。炊き込みごはんで握ったおにぎりを食卓の真ん中に置いたところ、瞬く間に完売した。
干物は焼いて食べるのが定番ではあるが、サンドイッチに入れたり、身をほぐして野菜と和えたりするなど、和洋問わずさまざまな楽しみ方ができることも魅力の一つだ。
下味がついている干物は、焼くだけで一品のおかずになる。長期保存が可能で、生の魚より手軽で扱いやすいため、現代のライフスタイルにも向いているのではないだろうか。さらに青砥さんはこう続ける。
「おいしい干物を食べたら、その違いが分かると思います。『これだ!』と言ってもらえるような商品作りをしていきたいですね」
素材を見極め、シンプルな原材料で魚の魅力を存分に引き出す。
50年の歴史をもつヤマヘイフーズ。「うちは何でも開ける」と口にするほど、あらゆる魚を開いてきた経験と長年培ってきた技術で、豊かな風味と旨味がぎゅっと凝縮された干物を、全国へと届けていく。
文・写真:寺田さおり