暖流と寒流が交わる全国屈指の好漁場を有する町、千葉県銚子市。
銚子漁港周辺の水産加工会社が多く建ち並ぶエリアで、ひときわ目を引く鮮やかなグリーンの社屋が見えてくる。銚子市に本社工場を置く「株式会社ヤマヘイフーズ」だ。創業50年以上となる同社は、干物の名店として知られている。
創業当初は魚の卸売りを行なっていたが、取引先のスーパーから「魚の干物も欲しい」と言われたことをきっかけに、干物の製造をスタートさせた。現在は干物を中心に、製造から販売まで一貫して行なっている。
そんな同社が、地元の醤油メーカーとタッグを組み開発した商品が「やみつき干物シリーズ」だ。その開発秘話や干物の製造におけるこだわりについて話を聞いた。
干物のおいしさの8割は魚の質で決まる
ヤマヘイフーズは、アジやイワシなど銚子の前浜ものを使って干物の製造を行ってきた。しかし、年々漁獲量は減少。試行錯誤のすえ、現在、看板商品となっている「ホッケの干物」は、おもに北海道・礼文島(れぶんとう)のホッケを使用している。
「会長が北海道じゅうをまわって、干物に適した魚を探したそうです。そこで最終的に辿り着いたのが礼文島のホッケでした。礼文島は狭い島なのでセリがありません。魚を獲った漁師自身が地元の漁協に持っていき、すぐに冷凍しているのでとても鮮度がいいんです」
そう教えてくれたのは、入社して今年で35年になる営業部の青砥武士さん。東京で生まれ育ち、入社を機に銚子に移り住んだそうだ。
ヤマヘイフーズでは、干物にする魚の仕入れから確認まで、社長自らが行なっているという。
「社長は毎朝5時頃に出社し、その日干物にする魚を解凍して状態を見ています。肉質を必ず自分の目で確認しているんです。毎日魚を見ているので、ちょっとした肉質の変化も見逃しません」
干物のおいしさの8割は、原料である魚の質で決まる。だからこそ、このこだわりは譲れない。「生で食べるものよりいい魚でないと、いい干物はできませんからね」と青砥さんは断言する。
老舗醤油メーカーとタッグを組んだ商品開発
今回開発した商品は、シマホッケ・アカウオ・サバをしょう油漬けにした「やみつき干物シリーズ」。3種の魚が半身で各2枚ずつ、全部で6枚入っている干物セットだ。
「ホッケなどの魚は、あれこれ味をつけるより素材の味を引き出すほうがおいしいんです。だから基本的に、弊社の干物は塩水に漬け込んでいます。一方で、地元のしょう油メーカー『ちば醤油』と協力して商品化をしたいと考えていました。それで今回考案したのが、しょう油漬けの干物です」
「ちば醤油」は、創業170年の老舗醤油メーカーだ。以前から取引があったご縁から、今回の商品化が実現した。やみつき干物シリーズでは、数あるしょう油の中でも、ちば醤油の代表的な濃口醤油である「特級 こいくちしょうゆ」を使用している。独特の風味と鮮やかな色合いが特徴だ。
「一番意識したのは、しょう油らしい風味、味つけにすることです。塩としょう油では魚への味の入り方が違います。干物は最後に焼く工程があるので、なかなか風味が出にくいのですが、仕上がりまでを計算しながら味の決め手となるしょう油を選びました」
今回のシリーズではアメリカ産のシマホッケとアカウオ、ノルウェー産のサバを使っている。
「何よりも重視したのは、しょう油との馴染みやすさです。さまざまな産地のものを検討した結果、相性がよかったのが脂乗りのいい輸入魚だったんです」
干し上がりや焼いた後まで計算し尽くされた素材の目利き。加工する工程の細部にいたるこだわりを感じ取ることができる。
文・写真:寺田さおり