「本当においしいまぐろって、めちゃくちゃおいしいんですよ!」
山菱水産株式会社の商品部マネージャー・出澤信さんは、目を輝かせてこう話す。
世界の消費量のおよそ4分の1を日本が占めると言われ、刺身や寿司のネタとして不動の人気を誇るまぐろ。特別なハレの日にも普段の食卓にも欠かせないまぐろだが、「まだまだ本当のおいしさを伝えきれていなくて、ヤキモキするぐらいなんです」と出澤さんは言う。
そんなまぐろ愛を詰め込み、山菱水産が開発したのが「山菱プレミアムシリーズ」だ。
確かな目利きで厳選した極上の天然まぐろを、食卓で食べるところまでイメージして作られたこの商品は「大切な人へ贈るからこそ絶対に失敗したくない」というお客さまの声を反映して作られたそうだ。いったいどんな商品なのか、開発に関わった出澤さんに話を聞いた。
世界中にネットワークを持つ山菱水産
福島県いわき市小名浜に本拠地を置く山菱水産は、世界中の漁場を知り尽くし、確かな目利きで厳選したまぐろを仕入れ、旬のおいしさを食卓へ届けている。
そのルーツは江戸時代までさかのぼる。
「当社の母体は漁師を束ねる網元だったんです。約20年前まではまぐろ漁船を持っていて、遠洋漁業を行っていました。そのため、世界中の漁場とネットワークがあり、情報をいち早く入手して買い付けすることができるんです。そういう商社的な機能を持つのが山菱水産の大きな強みだと思います」
まぐろは、世界中の海に生息し泳ぎ回る回遊魚。太平洋、インド洋、大西洋と広い海域に生息している。味や品質にはそれぞれの場所で違いがあり、自信を持って提供するためには、その中から最高のまぐろを選別しなければならない。
山菱水産では、長年築いてきたネットワークと確かな目利きで品質を見極め、仕入れ、商品企画、加工、出荷、配送までを一貫して行っている。取引先は、全国のスーパーマーケットや生協、飲食店など多岐にわたり、海外にまでに至る。
そうして広く製造卸売業を行ってきた山菱水産だが、今回、個人向けのギフト商品開発に力を入れているという。その理由はーー
まぐろの価値を伝えたい
「消費者として『大切な人に贈りたい』と思えるまぐろ商品を、EC上であまり見かけないなと思っていたんです。たとえば、お肉だと桐箱に入った高級ギフトがあるけど、まぐろは訳あり商品としてお得に売り出されてしまっていたりするんですよね。このままだと、まぐろの価値がきちんと伝わらない。だからこそ、個人向けのEC販売で丁寧に伝えていきたいと思ったんです」
まぐろは、獲れる時期や漁場によっても脂の乗りや身質に差が出る。さらに、船の設備や乗組員の技術もまぐろの品質に大きく関わるという。
「当社では漁場の情報だけで買い付けはしません。遠洋で獲れるまぐろは、船上で血抜きなどの処理を行い、瞬間冷凍で保存されます。船の性能や締め方でも品質が変わるので、どの船が獲ったというところを押さえた上で、買い付けを行っているんです」
その徹底ぶりに驚いていると、出澤さんは「それぞれのまぐろのストーリーを知った上で食べるとさらに味が変わるんですよ」と力を込めて話す。
「たとえば、大間沖で獲れるまぐろは津軽海峡に集まる肉厚のイカをエサにしているから旨味をたっぷりと蓄えているし、アイルランド沖で獲れるまぐろは、極寒の海でエビを食べているから深い甘みがあります。ストーリーを知ると、不思議とおいしさが増すんですよ」
さらに、南アフリカ・ケープタウン沖で獲れる最高峰の天然南まぐろ漁について、こんなエピソードを教えてくれた。
「ケープタウン沖まで行ったことのある漁師さんに『どんな感じだったんですか?』って聞いたことがあるんです。すると、甲板の上でバタフライをしたって言うんです。要するに、荒波が襲ってくるので泳がないと流されてしまうような海上ということです。漁師さんたちはいつだって命がけで漁をしている。それを知ったら、感謝の気持ちも味も何倍にも変わりますよね」
確かな目利きは山菱水産の強み
山菱水産が自信を持って「うまいまぐろ」を届けるのには、この道40年の目利きの達人、君塚好春さんの存在も欠かせない。
「以前、築地のセリで君塚に同行したことがあるのですが、君塚のうしろからゾロゾロと他社の若い仲買人たちがついて回るんです。君塚の目利きを見て学ぼうとする方たちがたくさんいるんですよ」
まぐろは品質が一定するものではないため目利きが難しい。君塚さんは、買い付けたまぐろを解体して選別し、日々その繰り返しでまぐろを見る目を養ってきた。今ではどの部分を使って、どんな商品を作るのかまでイメージし、商品に合ったまぐろを見極められるそうだ。
積み上げてきた信頼とネットワーク、熟練の目利き、そして並々ならぬまぐろへの熱い思いを持つ山菱水産。そんな彼らの英知を結集して作られる商品とはどんなものなのだろう。より一層、新商品への期待が膨らむ。
文・写真 奥村サヤ