2023.11.15
福島県2023.11.15
旬の魚を新しい食べ方で楽しめる
いわきの“味”が詰まった「浜のおつまみ」〈前編〉
有限会社上野台豊商店

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有限会社上野台豊商店

魚料理と聞いて、みなさんはどのようなイメージを持つだろうか?

「調理が難しい」「骨や内臓の処理が大変」のように、手間がかかるから、自宅ではあまり食べないという方も多いだろう。

魚に含まれるビタミンや不飽和脂肪酸が身体によいという理由で、世界的に魚介類の消費量は増加傾向にあるものの、日本では、前述の通りじわじわと魚離れが進んでいる。

私たちの暮らしに根づくことで、受け継がれてきた食文化を次世代につなげ、どう守っていくのか。港町のシンボルである魚食文化を取り戻すため、現代の暮らしに寄り添った商品づくりを行う、上野台豊商店の代表取締役・上野臺優(うえのだい・ゆたか)さんに話を伺った。

枠にとらわれすぎないこと

上野臺さんは、1960年に福島県いわき市で創業した有限会社「上野台豊商店」の3代目。同店では、小名浜港で水揚げされた魚を市場から仕入れ、加工品を製造するほか、中央卸売市場や地元のスーパーに、さんまなどの鮮魚を出荷している。

有限会社上野台豊商店

創業から63年。2023年9月10日には、観光物産館「いわき・ら・ら・ミュウ」に新店舗「小名浜あおいち」をオープンさせるなど、新たな取り組みを仕掛けている。

店名の「上野台豊」は、上野臺さんの祖父の名前だ。創業当時は、安定した水揚げがあったイワシの加工を中心に、父・和雄さんの代からは、さんまの鮮魚出荷や加工にシフトして、地元の水産品を販売してきた。

幼少期は魚嫌いだった上野臺さんだが、中学生のころからお店を継ぐ意識はもっていたという。その後は、親のすすめもあり、商品の取引先だった名古屋の卸売市場に就職した。

有限会社上野台豊商店

「名古屋は、九州や西日本で水揚げされた魚も集まってくるので面白かったですね。いろんな魚種に触れましたし、料理や味付けも目新しいものばかりでした。九州の漁師は、自ら捕ってきた魚を箱詰めして、市場で売るんですよ。市場ならではの売り方も学びました。仕入れに来る顔ぶれはほぼ決まっているんですが、毎日顔を合わせる人に、いかに商品を買ってもらうかを考えるんです。担当者や取引先との関係づくりも、いい商品づくりと同じように大切なんだと学びました」

地元で水揚げされた魚を加工して販売するのが基本だったところから、名古屋の市場でさまざまな魚の食べ方や売り方を学び、商売の捉え方が広がったと上野臺さん。

有限会社上野台豊商店

上野台豊商店では、未利用魚の「カナガシラ」を活用してだし醤油を開発したり、ペット業界とタッグを組んでドックフードの商品化にも取り組んでいるそうだ。枠にとらわれない商品開発の背景には、名古屋での経験も影響しているのかもしれない。

地元の魚をいかに食べてもらえるか

有限会社上野台豊商店

名古屋での修行を経て家業に入り、さんまの鮮魚出荷や商品づくりに励んでいた矢先、東日本大震災が起こった。原発事故による放射能の懸念から、福島県では、県外に魚を出荷できない状況が続いた。そこで、上野臺さんが目を向けたのは、地元・小名浜だった。

「それまでは大きな消費地に向けた商売をやってきたので、地元のことをあまり考えられていなかったんですね。まずは、足元を見つめ直そう、地元の食文化やここでとれる魚をいかして、このまちの人が食べたくなるような商品をつくろうと思いました」

地元を掘り下げていくなかで、小名浜を盛り上げようと精力的に活動する人やいわきの魚が好きな人など、多くの出会いがあったとこれまでを振り返る。目を向けていなかっただけで、たくさんの人が小名浜の魚を望んでいることを知った。こうした出会いが、上野臺さんの活動を支えるよりどころになったという。

魚食の新たな食べ方を提案

上野台豊商店が近年力を入れているのは、いわきで水揚げされるようになったイエセビだ。

本来イセエビは、温暖な海で獲れる海産物で茨城県が安定漁獲の北限とされていたそう。しかし、地球温暖化の影響で産地の北上がすすみ、いわきでも水揚げされるようになった。

上野臺さんは、地元いわきの新しい水産資源だと捉え、「磐城イセエビ」と命名。いわき市内のイタリアンカフェダイニング「スタンツァ」の北林由布子シェフ監修のもと、イセエビのピッツァやパスタソース、半身を焼いたグリルを開発している。

反響をよんでいる磐城イエセビシリーズは、現在開発中の「高級 浜のおつまみセット」の目玉商品のひとつにもなるそうだ。

なぜ、次から次へと多様な取り組みを展開できるのだろうか。

有限会社上野台豊商店

「いろいろなことをやっているようにみえますが、取り組みの軸はいたってシンプル、『どうしたら地元の魚を食べてもらえるか』ということだけなんです。ピッツァには、子どもの好きなチーズをトッピングし、パスタソースには、イセエビの殻から煮出したダシをふんだんに使うなど、魚嫌いの方にも喜んでもらえる商品づくりを心がけています」

ライフスタイルの変化によって「魚離れ」が進むいま、これまでと同じやり方を続けていてはダメだと危機感をもつ上野臺さん。上野台豊商店の加工品は、内臓や小骨が手作業でとりのぞかれ、魚独特の臭みがおさえられている。魚を食べるハードルを下げられるのであれば、手間隙は惜しまないという徹底ぶりだ。

消費者に寄り添い、魚食のお困りごとを解決する。魚の新たな食べ方を提案する上野臺さんのスタイルは、今回の商品開発にもいかされている。

文・写真 前野有咲

後編へつづく