魚の個性が際立つ味付けに挑戦
バラエティ豊かな魚種を取り入れたシリーズの商品開発に取り組む武輪水産。今回の「八戸たけわ食堂FineDISH!」シリーズでは、「赤魚のブイヤベース」、「いわしとガーリックのアヒージョ」、「サバのタンドリー風」の3つの味で展開している。
「Fineには「素晴らしい」や「上質な」等の意味があります。それにDish(=皿盛料理)を付けて、上質な小皿料理を気軽に食べられるイメージが伝わるような商品名にしました」と藤田さん。昨年度、同事業で開発した「八戸たけわ食堂」シリーズがメインディッシュだとすれば、今回の「八戸たけわ食堂 FineDISH!」シリーズは小皿料理。電子レンジで温めれば手軽に食べられ、1食分1人前だが満足感のあるボリュームだ。
また、常温保存できるのも特徴で、防災意識が高まっている昨今、非常食としての機能も併せ持っている。
FineDISH!シリーズのなかで、今回新規チャレンジしたのは「赤魚のブイヤベース」だ。
「ブイヤベースは白身魚との相性が良いのですが、タラだと当たり前すぎるし、赤魚ならブイヤベースの色合いとも合うかもと思い、試してみたらこれがおいしくて!現在は試作を完了し、あとは切り身さえ手に入れば製造できるところまで来ているのですが、条件に合う赤魚の切り身を先日ようやく見つけることができました。簡単に新しい魚に挑戦すると言っても、やっぱり難しいなと改めて実感しましたね」と藤田さん。
藤田さんイチオシだという「イワシのアヒージョ」には、八戸産のイワシを使用している。イワシは身を開かず、内臓と頭を取り除いた状態でレトルト加工しているそうだ。圧力鍋で調理したように柔らかく仕上がり、骨まで食べられる。青森県産のニンニクが効いた、食欲をそそる一品だ。
「バジルマリネ」シリーズは、ホタテ、サバ、タコの3種類。玉ねぎ、にんじん、パプリカと各魚介類がマリネされ、味付けされた状態でパッケージされている。そのまま箸休めとしてつまむのも良いし、生野菜のサラダにそのまま乗せれば、立派な魚介サラダになりそうだ。
「もともとマリネは、以前、個食向けに作ったことがあったんです。さらに一つアクセントが欲しいなと思い、考えついたのがバジルでした。バジルを加えたことで酸味の角が取れて、柔らかく優しい味わいのマリネになりました」と藤田さん。魚介の旨味がマリネ全体に広がり、シャキシャキとした野菜がアクセントになっている。
バジルマリネに使用しているサバは、いったんしめさばにしたものを使用している。
「八戸産のサバは枯渇している状態で手に入らないので、サバに関しては全国の港各地を当たり、国産サバを確保しています。ただ全国的にサバが獲れない状況なので、今後の漁次第では変わる可能性もあります」と藤田さん。バジルマリネシリーズは冷蔵状態での販売を予定している。
魚料理を、もっとおいしく手軽に
今回開発した「八戸たけわ食堂FineDISH!」シリーズと「バジルマリネ」シリーズは、パッケージデザインを確定させたのち、八戸市内の土産店や量販店で順次販売予定だ。
お客様に量も質も満足していただきたいという藤田さんの思いから、満足できるボリュームかつ日常に取り入れやすい低価格が実現した。
「社内の諸先輩方に聞くと、昔も前沖のサバが減少した時期があったそうです。そうした時期にはノルウェーサバを輸入して作っていたそうで。それが、ある時期からまた前沖でも水揚げされるようになり、今では八戸のブランド食材に位置づけられるようになった。魚がなければないなりに、しのいできた歴史はあるんですよ」と語る藤田さん。
売上の半分以上を担っているサバを一気に穴埋めすることはできないが、今回新しい魚種の取り扱いに挑戦したことで、小さな一歩を踏み出せたと手応えを感じているそうだ。
「魚って、肉に比べるとまだ弱いと思うんです。寿司はステーキや焼き肉と並べるくらいのぜいたく品に位置していますが、それ以外の魚料理のイメージは焼くか煮るか…地味なイメージが先行してしまいます。魚料理はおしゃれでおいしいという認識を広げて、魚料理にもっと親しんでもらいたいですね」。
肉料理に負けないメインディッシュとしておいしい魚を食べてほしい。そんな作り手の想いが詰まった武輪水産の新商品シリーズは、青森を代表する水産加工品になるだけでなく、日本の食卓の未来を変えるかもしれない。
文・写真 鈴木麻理奈