いつでも、どこでも、食べやすい工夫を
新商品はトレーにまでこだわった。
「カレーの容器は、食卓にそのまま提供してもおしゃれに見えるようグラタン皿のイメージで当社オリジナルのトレーを採用しました」と内海さん。
レンジで約1分温めるだけで手軽に本格スパイスカレーが食べられ、常温で1年間の保存が可能だ。
東日本大震災での体験から電子レンジ対応のトレー商品は生まれた。最初のトレー商品は煮付シリーズだった。大津波によって壊滅状態となったまちで、当時は電気も止まり水も出ない状況だった。
「汲んできた水はとても貴重だったため、食器を洗うために使うことはできませんでした。だから、お皿にラップを巻いたり、そもそも食器がすべて流されてしまっていたり。食事をすることがとても大変だったんです」と内海さん。
この体験をもとに、お皿を必要とせず、常温で長期保存でき、加熱しなくても食べれる煮付ができあがった。非常時だけではなく、洗い物を減らして家事の負担を減らし、だれでも簡単に調理でき、日常のなかで食べてもらいやすい商品だ。
サバの魅力をより多くの人へ届けるために
いつでも、どこでも、食べやすいようにという考えは、鮮冷のほかの商品にも反映されている。工場を案内いただくと、ちょうど「まぜるだけご飯 たっぷり三陸漁師めし」シリーズ「さけ」の製造をしていた。
大きくカットされた女川名産の銀鮭がたっぷりと入ったこの商品は、瓶詰めしレトルトすることにより、常温で1年の保存が可能なのだそうだ。炊き立てのご飯2合に混ぜるだけで、鮭ご飯が完成するという手軽さが魅力だ。
そして今回新たに瓶詰め商品として開発中なのが、「食べる焼きさば ラー油味(仮称)」だ。取材時は開発途中の商品を見せてくれた。
さばを使った商品は、主に煮付けやみそ煮、水煮として販売されてきた。しかし、商品開発部の若槻さんは「メジャーな味付け以外でさばの魅力を伝えられないだろうか」と常々考えていたという。
「居酒屋でレバ刺しをごま油塩で食べたとき、さばに置き換えたらおいしいのではないかとひらめきました。そのイメージを膨らませて、最終的にはラー油に行きつきました。さばの味を最大限に活かすためにシンプルな味付けをテーマに開発しています」
そして、注目してほしいのが原料のさばだ。金華山沖はプランクトンが豊富で、エサを求めて回遊する必要がなく、一定の場所に根づくため、脂乗りがいいのが特徴だ。そのさばを水揚げされる女川の市場からすぐ工場へ運び加工するため、鮮度が段違いなのだ。
さらに、焼くことでさばの脂のうまみと香ばしさが出て、ラー油とひとつになることで旨味がよりいっそう引き立つ。調味液に何を入れるかを現在試行錯誤している。
ご飯との相性が抜群の商品にすべく、開発に余念がない。常温で1年間の保存が可能で、備蓄としても役立ってくれる商品となる。
女川から世界へ届け!
原料の鮮度にどこまでもこだわり、常に新しい発想でおいしいを提供する鮮冷が目指すのは、女川の魚の魅力を世界へ発信することだ。
「たくさんの方に女川の『うまい!』が伝わってくれたらうれしいですね。魚食の魅力を知ってもらえるよう、自信を持ってお出しできる商品をつくっていきます」と若槻さん。
鈴木さんは「毎日とはいわなくても、週に一度、月に一度でも自分たちの商品を食べたいと思ってもらえるようになりたいんです」と謙虚に言う。そこから、商品に対しての情熱とは反対に、つねに消費者に寄り添いたいという想いが感じ取れた。
震災により全壊流失という苦難を乗り越え、どんなときでも「おいしい」を感じさせてくれる商品は、きっとたくさんの人を笑顔にしていくだろう。
文・佐々木僚 写真・株式会社ル・プロジェ