暖流と寒流がぶつかる潮目の海域、世界三大漁場のひとつである三陸・金華山沖が近いことから、年間を通して豊富な魚種が水揚げされる宮城県女川町。リアス式海岸というその恵まれた地形を利用して牡蠣や帆立、銀鮭の養殖も盛んだ。
そんな女川町で、水産物の加工、製造、販売をおこなっているのが「株式会社鮮冷」。三陸産の魚介類を使用した煮付や混ぜご飯の素、アヒージョなど、斬新なアイデアのレトルト惣菜も手掛けており、地元の方たちからの人気も高い。
さらに今回、「タイ風グリーン帆立カレー」、「食べる焼きさば ラー油味(仮称)」を開発中と聞きつけ、新商品開発に至るまでのお話を伺った。
2社の強みを活かしてできた「鮮冷」
長年に渡り女川町で鮮魚の冷蔵・冷凍事業に携わってきた「株式会社石森商店」と、同じく水産加工・販売に携わってきた「株式会社岡清」が協同で、株式会社鮮冷を2013年に設立した。
きっかけは東日本大震災だ。女川町は殆どの会社や工場が全壊流出するほどの大きな被害を受けた。
女川町と女川町の水産業が復興するために、また復興後も持続的に発展していくためのに、2社の繁忙期が重ならないこと、また、経験や強みを活かし新しいものを築いていきたいという想いが一致したことから、株式会社鮮冷を設立するに至った。
「同じ町にあった2つの企業ではありましたが、それまで会社間の交流はほとんどありませんでした。立ち上げの準備期間中は、作業マニュアルの整理や社員同士の交流を重点的に行うようにしていました」と品質管理室室長の内海晃一さん。
会社設立から工場稼働に入るまでには3年ほどかかったという。現在では、女川町の「うまい!」を世界へ届けるため、それぞれの強みを活かして付加価値の高い商品を提供している。
CAS凍結の冷凍帆立貝柱「鮮冷ほたて貝柱」は、主力商品の一つだ。
解凍時にドリップが少なく、限りなく生の旨みと食感を再現できる急速凍結技術「CAS (Cells Alive Sysem/細胞を壊さずに凍結することを可能にした技術)」と、連続して凍結できるトンネル式凍結機を組み合わせた凍結機を導入。その結果、高品質な冷凍ほたて貝柱を大量に生産できるようになった。
その品質が認められ、ホテルやミシュラン星取得のレストランなど、国内外問わず多くの名店から高い評価を得ている。
一方で、課題もあったという。冷凍ほたて貝柱を製造する際の副産物、貝ひもの低利用という現状だ。
貴重な水産資源をムダにすることなく利用し、美味しい商品の開発を模索。カレーの具材としても活用することになった。
カレーのスペシャリストが開発
現在開発中なのが「タイ風グリーン帆立カレー」だ。
商品開発部の若槻武志さんは、東京都出身。震災後、自分にできることはないかと被災地をまわるなかで女川町の魅力に惹かれ、移住を決意したという。鮮冷に勤務しながら、週末は女川町にあるスパイスカレー専門店「Blue Coral Reef 青い珊瑚礁」の店主という一面を持つ。
「鮮冷に入社する以前は、大手外食企業にて約30年間、商品開発に携わってきました。カレーの開発を得意領域としていたので、グリーンカレーの持つコクがほたての旨味を最大限に活かせるのではないかと考えたんです」
まずは、日本人向けにカレールーを改良。ココナッツミルクに牛乳と生クリームを合わせまろやかに仕上げ、香辛料を抑えることによって年齢を問わずおいしく食べてもらえる味に仕上げた。また、ほたてをしっかりと味わってもらえるように貝柱と貝ひもは内容量の約25%もの量を使用している。「ほたてが引き立つための味のバランス調整に苦労しました」と若槻さん。ほたての加工方法など試行錯誤し、数カ月かけて納得のできるものが完成した。
「実は私、グリーンカレーが苦手だったんです。でも、このカレーを食べて考えが変わりました。優しいコクのある味わいで、我が家の子どもたちも大好きで食べています」と商品開発部の鈴木まやさん。
カレーのスペシャリストが開発したまろやかなカレーに、ホタテの旨味がたっぷり入っているのだから、おいしさは間違いないはずだ。
文・佐々木僚 写真・株式会社ル・プロジェ