「田舎のごちそう」シリーズを全国へ
苦境に立たされるなか、おのづか食品は創業以来初めて、自社ブランドの開発に取り組んだ。それが「田舎のごちそう」シリーズだ。
それまで、ホテルや旅館に仕出しとして提供してきた「筑前煮」や「煮魚」「肉じゃが」といった昔ながらの和のお惣菜を消費者向けにリニューアルし、「大人の肉巻きエビフライ」などの新メニューも開発した。
さらに、新規の顧客獲得に向けて全国各地で行われる食品展示会にも積極的に参加し、自社のホームページもリニューアル。これまでは裏方として徹してきたが、自社名を全面に押し出し、ブランド力と発信力を強めている。
こうした努力が実を結んで、「田舎のごちそう」シリーズは地元鮮魚店や土産物店、観光施設でも取り扱われている。なかでも、煮魚セットは人気で7年連続で百貨店のギフト商品に選ばれているそうだ。
「うに味噌は看板商品になります!」
現在、「田舎のごちそう」シリーズで最も注目を集めているのが「浜の味 うに味噌」だ。
商品開発のきっかけは、生ウニを取り扱う商社から「うちのウニで何か作ってもらえませんか」と持ちかけられたこと。当時はコロナ禍のまっただ中で、全国各地で行われていた展示会も中止や延期になり、営業活動がほとんどできない時期だった。
そんな中、小野塚さんが商社から持ち込まれた大量の生ウニを前に思いついたのは、母の作るうに味噌。いわき市の郷土料理であり、台所でムダを出さないように工夫を凝らした主婦の知恵と、子どもたちに「お腹いっぱい食べてほしい」という母の愛が込められた一品だ。
「ウニは高級なので食卓に上ることはめったにありませんが、うに味噌を作ってもらえたときは子ども心にうれしかったことを覚えていますね」と小野塚さんは振り返る。
懐かしい母の手料理を再現するのは、20リットルの大鍋。煮魚や肉じゃが……、これまでいくつもの和惣菜を生み出してきた鍋が、ここでも活躍した。
水分量や色、香りなど、仕入れのたびに少しずつ違うウニの状態を確かめながら、一つひとつ手作業で下処理を行う。湯煎で丁寧に材料をほぐし、ふっくらとした表情に整える。ミョウバンを使用していない無添加のウニで仕上げるため、下処理はかなり気をつかう作業で、料理人の五感と肌感覚がたよりになる。ウニと卵を合わせ、磯の風味を引き立てる味噌や基本調味料で味付けし、じっくり炒め合わせていく。
そうして仕上がった「うに味噌」は「田舎のごちそう」のブランドイメージにぴったりで、社員の反響も上々。東京から来た取引業者に振る舞うと、「これは間違いなく、御社の看板商品になりますよ」と太鼓判を押されたという。
助けてくれたふるさとに恩返しをしたい
パッケージのリニューアル等を経て、2023年6月の展示会から、「うに味噌」を初出品した。出展ブースには、「うに味噌」目当ての営業担当者が訪れ、そのだれもが一口食べると「おいしい」と笑顔になる。その後、具体的な問い合わせや取引につながる件数も多く、再訪した営業担当者が「自分用にオンラインで買いました」と声をかけてくれたこともあった。展示会に集まる「食」のスペシャリストたちの反響の大きさは、間違いなく自信になった。
現在は、大手コンビニから寄せられた商談をまとめつつ、近々スタートするネットスーパーでの取り扱いに向けて準備を進めている最中という。
震災以降、試行錯誤しながら挑戦してきた一つひとつが実を結び始め、「経営にもようやく光が見えてきました」と安堵の表情を浮かべる小野塚さん。今後は、かつて業務用として人気だった「うに豆腐」や、牡蠣を使った商品の開発にも取り組む予定という。
小野塚さんは、全国の展示会に出展する度、必ず「“福島県いわき市の”おのづか食品です」とPRしている。それは「地元のお客さんに育てられ、震災後の苦しい時期を支えてもらった」という感謝の気持ちがあるからだ。
「今回は『うに味噌』といういわきの郷土料理に助けてもらったようなもの。この商品を大切に育てながら、全国に広めていくことで、福島に、いわきに、少しずつ恩返ししていきたいですね」と思いを込めて商品を送り出している。
文・荒川涼子 写真・事業者提供