爽やかな秋風が吹きはじめた9月某日。景観の美しさから日本百景に指定されている福島県相馬市の松川浦に足を運んだ。
ここでは海水と淡水が混ざり合う水質、湾になった地形を活かして、あおさ(ヒトエグサ)の養殖が行われている。松川浦のやさしく揺れる水面で育まれるあおさは、香りが高く柔らかいのが特徴だ。
1993年創業の「株式会社マルリフーズ」は、ここ松川浦で養殖したあおさを加工し、乾燥あおさや冷凍あおさなどの製造・販売を行なってきた。もっとあおさに親しんでほしいと、現在「あおさの食べ比べセット」を開発しているという。とはいえ、あおさにどんな違いや楽しみ方があるのだろう?
営業部・部長の阿部純也さんに、商品開発に至るまでのストーリーやこだわりを伺うと、あおさの魅力にみるみる惹き込まれた。
やわらかく、栄養豊富な松川浦産の「あおさ」
「東日本大震災以前、松川浦のあおさの生産量は全国第2位を誇っていました。相馬で生まれ育った私にとって、あおさは幼いころから身近な存在で、なにも考えず当たり前のように食べていて……マルリフーズに入社してからその魅力に気づいたんです」
あおさの養殖をおこなう松川浦は、海水と淡水が混ざりあう汽水域。ミネラルや窒素、プランクトンなどの養分が豊富で、海藻類を養殖する環境として最適だ。さらに、松川浦の地形は海水の入り口が1つで波が穏やかなため、あおさがやわらかく育つという。
あおさの魅力の1つは、その栄養価の高さ。海藻類で豊富だといわれる食物繊維はもちろん、妊娠前後には特に大事とされる葉酸や新陳代謝を促すミネラルが豊富に含まれる。日ごろの食事にあおさを取り入れることは、よい健康効果をもたらしそうだ。
「妊活や腸活にぴったりのあおさは、老若男女幅広い世代におすすめです。離乳食やおかゆに少しずつ混ぜて食べてもらえたら、幼いころから慣れ親しんだ味になるんじゃないかな」と阿部さん。
そのまま安心して食べられる洗浄のこだわり
生産量が多く、年間を通してあおさを安定供給してきたマルリフーズは「乾燥あおさ」のパック詰めや「冷凍あおさ」の卸売りを先駆けてはじめた。品質の高さから、料亭や寿司屋、水産会社など広く重宝されたという。
事業者向けに流通した背景は「そのまま食べられる安心感があってこそ」だと阿部さんは話す。
海藻の水揚げでは、必ず異物が入るそうだ。例えば、小さな貝類や釣りで使われるテグス、鳥の羽、川から流れてくる草木など、透明な異物も多く、それらを取り除く作業はとても難しい。
だからこそ、異物除去作業に手間暇をかけている。専用の機械で洗浄、ブラッシング、殺菌、水洗いを行ったあとに、目視で異物がないかを繰り返し確認していくのだ。
「丁寧に、スピーディーにこの作業をするのは簡単ではありません。従業員の熟練したノウハウは会社にとっての財産です」と話す阿部さんの顔は誇らしげだ。
こうしてできあがったあおさは、水洗いの必要なく、そのまま食べられる。安心はもちろん、あおさがもつ香りが引き立ち、葉の色もクリアで美しい。マルリフーズの高品質なあおさに信頼を寄せる事業者が多いことにも頷ける。
さまざまな形で「あおさ」を楽しんでもらうために
マルリフーズではあおさを様々な形状に加工し、商品開発を行ってきた。
例えば、乾燥あおさをより細かい粉状にしたものを使った「あおさのあられ」、さらに細かくパウダー状にしたあおさを練りこんだ「あおさ麺」、福島県の銘菓とコラボした「あおさゆべし」など、こんなところにも!と驚くほどバリエーション豊かだ。
ここまで話を聞き、あおさの奥深さをひしひしと感じる筆者だったが「もっと、あおさを気にかけてほしい」と、阿部さんの推しは止まらない。
「ここ(相馬)にいいものがあると知っちゃったんですよね。だからもっと伝えていきたいんです!」と語気を強める阿部さんは、あおさに興味をもつきっかけになるような商品をという思いで「あおさの食べ比べセット」の開発に挑戦中だ。
文・写真:蒔田志保(写真3枚目、4枚目 事業者提供)