2023.11.1
宮城県2023.11.01
干物がゴロッと入った「お茶漬け」
間宮商店が提案する新しい魚の楽しみ方〈前編〉
株式会社間宮商店

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株式会社間宮商店

マグロの水揚げ量と練り物工場の数が全国でもトップクラスを誇る、宮城県塩釜市。人口に対して日本一すし店が多いまちとしても知られている。

その水産のまちで50年以上にわたり干物店として愛されてきた「株式会社間宮商店」が、こだわりのお茶漬けを開発中。干物の新たな味わい方を提案する。 

老舗干物店の本気を詰め込んだ「食べてよし・贈ってよし」のお茶漬け。その開発秘話とともに、魚にかける熱い想い、おいしい干物を届けたいという取り組みの数々を、間宮徳昭社長と販売管理部の遠藤未来さんに聞いた。

干物と向き合い続けて50年以上

株式会社間宮商店
魚にかける熱い想いに溢れる間宮さん

「世の中に、まだないものを作っていきたいんです」

2023年、干物を使ったお茶漬けの開発をスタートした間宮さんにその経緯を尋ねると、確固たる意志を感じさせる力強い言葉が返ってきた。

間宮商店が商売を行う塩釜市は、日本有数の生マグロの水揚げ量を誇る塩釜港に面した港町。「魚に厳しいまち」であるこの土地で、同社は1966年の創業時からずっと干物の販売を続けてきた。

「ひものは9割が素材の力」を合言葉に、可能な限り社長自らが産地まで赴いて魚の旬を見極める。加工時には薄い塩水に長時間漬け込み、その後低温から中温でじっくり乾燥・熟成してうま味を閉じ込める。一般的なメーカーでは高温で1時間ほどで干し上げるところ、同社では最長10時間かける。これにより余分な水分を除去し、うま味が凝縮される。食べた時に外はパリッと、中はふっくらジューシーな食感に仕上がるのだという。

若い人にも干物のおいしさを伝えたい

株式会社間宮商店
社屋の窓から海が見える

精魂込めてつくり続け、地元に根づき愛されてきた間宮商店。そのようななかで感じるようになった干物の課題は、若い世代から敬遠されがちという事実だ。

一方で、回転ずし店は若者からも人気がある。間宮さんは、「魚が不人気なわけではない。アプローチを変えれば、もっと幅広い年代の人に刺さる商品を生み出すことができるはず」と考えた。そのなかで生まれたのが、2016年に販売を開始した「うみおむすび」であり、現在開発中の「うみ茶漬け」だ。

新商品の開発にあたり、干物を気軽に食べられない理由の一つとして、「火を通す必要がある」ことに着目した。そこで候補として挙がったのが、フレークとお茶漬けだ。どちらも手軽に食卓に取り入れられ、かつ子どもから高齢者まで幅広い年代が食べやすい。とくに意識したのが、30代以下の若年層と子どもだという。

魚が苦手という人にこそ食べてもらい、魚を身近に感じてほしい。おいしさを知ってもらいたい。そのためのアプローチとして「最適解は何か」を考え続けた。

結果としてお茶漬けに舵を切ったのは、より多くの人に手に取ってもらいやすいという判断からだ。

なぜお茶漬けに「干物」なのか

株式会社間宮商店
お茶漬けの具とは思えないほど大きな切り身(開発途中)

お茶漬けに使用する魚はキチジ、キンメダイ、ギンザケの3種類。それぞれの魚を干物にしたものと、かやく、だし汁をセットとする予定だ。

なぜ、あえてひと手間をかけ「干物」なのだろうか。それは、干物の製法とお茶漬けの相性が抜群に良いからにほかならない。

干物の製造工程には、「塩水の漬け込み」と「乾燥・熟成」がある。

「塩水の漬け込み」には、味つけのほかに、魚にタンパク変性をおこさせることで、次の「乾燥・熟成」につなげる重要な役割がある。また、塩水に漬け込むことで魚に含まれる灰汁(あく)を抜き、苦味やえぐ味といった雑味を極限まで減らすことができる。

続いての「乾燥・熟成」では、さらに余分な水分を取り除きうま味をぎゅっと凝縮させる。これをお茶漬けにすることで、魚本来のおいしさが際立つのだ。

株式会社間宮商店
一般的なお茶漬けにはほぐし身を使用するが、あえて切り身を採用した

とはいえサンプル品を見るとふっくらとして、一般的な干物とはやや印象が異なる。製法についてさらに詳しく尋ねると「水分は抜いているものの、通常の干物よりも緩く乾燥させているんです」と間宮さん。その分ふっくらとした仕上がりになり、お茶漬けにした際の口当たりが良くなるのだとか。

切り身が入ったパック内の水分の正体は、実は魚から出た油やうま味の成分。ほかほかのご飯の上に乗せて食べると、魚のうま味をダイレクトに感じられるのだ。

情熱と蓄積されたノウハウを原動力に順調に開発が進む一方、課題もあるという。

文・岩﨑尚美 写真・株式会社ル・プロジェ

後編へつづく