「何でもない日に、かまぼこを食べる日常をつくるのが一番のテーマです」
こう話すのは、福島県いわき市のかまぼこ店 貴千の3代目 小松唯稔(ただとし)さん。
かまぼこと聞くと、紅白の板かまぼこをイメージする人が多いかもしれない。しかし、実はおずやおつまみにもなり、かまぼこの活用法のバリエーションは幅広い。貴千では、かまぼこをもっと身近なものにしたいと「イタリアンかまぼこ」や「珍味かまぼこ」など、オリジナル商品の開発に力を入れてきた。
そして今回、新たに開発したのが「アヒージョかまぼこ」だ。かまぼことアヒージョ、意外な組み合わせな気がするが、どのような商品なのだろうか。開発エピソードについて伺った。
かまぼこのイメージを変えていきたい
1963年に創業して以来、板かまぼこの生産地であるいわき市でかまぼこづくりをしてきた貴千。
創業者である小松さんの祖父・小松中司さんがかまぼこをつくる上で大切にしていたのは、魚の身の力を最大限に引き出すこと。魚本来の味が活きた貴千のかまぼこを食べると、代々受け継がれてきたこだわりをしっかりと感じることができる。
貴千がメインで販売しているのは板かまぼこであるが、その他のオリジナル商品のラインナップの多さには驚かされる。
いわき市・小名浜に伝わる郷土料理をもっと手軽に、そしておいしく食べられないか。 そんな想いから開発したのが「さんまのぽーぽー焼風蒲鉾」という商品。さんまのポーポー焼きはさんまの身をすり潰し、ハンバーグのようにして焼いて食べる料理で、ふるさとの味として各家庭で受け継がれてきた。
さらに、貴千にはスモークサーモンやチキンを魚のすり身と一緒に練り込んだものにたっぷりチーズを加えた「ワインによく合うかまぼこ」シリーズなど、お酒のお供にぴったりの商品もある。
「かまぼこの絵を描いてくださいって言ったらお正月に食べる板かまぼこを書く方がほとんどだと思うんです。おせちやギフト用に購入してくださる方もたくさんいるので、オーソドックスな板かまぼこは創業時から変わらず作っています。ですが、約10年前からもっと日常のなかで食べてほしいという想いが強くなり、新商品開発に力を入れてきました」
他店と同じことをやっても未来はない
いわき市は昔から水産加工会社が多く、長年板かまぼこ生産量一位を誇っていた。その事実を知り、消費量も多いのだろうと推測したが、実際は違っていた。
いわき市で生産された板かまぼこのほとんどは首都圏で販売されている。以前は、大量生産をして首都圏に送る流通スタイルで営業しているかまぼこ屋がほとんどだったそう。
しかし、東日本大震災を機に首都圏への流通量はガクンと下がり、小松さんはあることに気づかされたという。
「震災後、風評被害の影響もあったと思いますが、かまぼこを卸していたスーパーから注文が全然入らなくなったんです。生産している側はこだわりをもって作っているけど、卸先や消費者にとって板かまぼこは包装の掛け紙が違うだけで、どの会社のものでも同じ。逆に、うちでしかできないものを作り出していかなければ、かまぼこ屋の未来はないと気づかされました。それがきっかけで新商品開発に力を入れるようになったんです」
かまぼこの魅力を届け、可能性を広げていく
「前にこんなものを作ったことがあるんです」とページをペラペラめくりながら小松さんが持ってきた一冊の本。
見ると、かまぼこをアレンジしたオリジナル料理の数々が紹介されている。かまぼこといえば、そのまま食べるか、しょう油を付けて食べるかぐらいしか食べ方を知らなかったので、かまぼこ活用法の幅の広さに驚いた。
「かまぼこはそのまま食べてもおいしいですが、私のおすすめの食べ方はバターソテーです。バターを付けて焼くことで、より濃厚な味わいになるんです。魚が苦手なお子さんでも、かまぼこなら少しのアレンジを加えるだけで食べやすくなりますよ」
貴千のホームページには「旬のかまぼこ便り」と題して、自社商品を使ったレシピ集も紹介されている。
かまぼこのアイディア商品を開発、そして活用法を提案し続けることでかまぼこの魅力を多くの人に届けてきた貴千。
今回開発したアイディア商品も、かまぼこの新たな魅力を発見できる斬新なものだった。
文・写真 永井章太