2023.11.22
千葉県2023.11.22
鮮度そのまま瞬間凍結で家庭に直送!
仲買人が厳選する銚子の「つりきんめ」〈前編〉
有限会社カネ八商店

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有限会社カネ八商店

鮮やかな赤色の魚体に、金色に輝く大きな目が特徴のキンメダイ。

千葉県銚子市で水揚げされるキンメダイは「銚子つりきんめ」として千葉県のブランド水産物に認定されている。東京・豊洲市場でも高い評価を得ている一方、高級魚というイメージがあり、家庭で食べる機会は少ないのではないだろうか。

そんななか、銚子港の眼前に門を構える「有限会社カネ八商店」では、キンメダイを家庭でも食べやすいように加工した商品を開発している。創業以来、一貫して仲買業を営んできた同社が、新たに加工業に挑戦する理由や商品開発に至るまでのストーリーを追った。

「銚子つりきんめは格別」といわれる理由

「現在は仲買業がメインで、市場で買い付けた魚を豊洲市場や全国各地の市場に向けて発送しています」

そう話すのは、有限会社カネ八商店の宮﨑啓太さんだ。祖父・裕二さん、父・都央さん、兄・優太さんとともに親子3代で事業を営んでいる。現在は、兄の優太さんが家業を継いでいる。「今では大黒柱的な存在です」と啓太さんは話す。

取材で伺うと、魚の梱包作業を行なっているところだった。早朝、市場で仕入れ、これから出荷予定だというキンメダイを見せてもらった。

有限会社カネ八商店
鮮度のいいキンメダイは目玉に濁りがなく金色に輝いているという

キンメダイは水深200〜800メートルに住む深海魚。千葉県銚子沖は、親潮と黒潮がぶつかる潮目の海で、利根川の河口にも近いため、豊富なプランクトンが発生する豊かな漁場だ。エサに恵まれて育つ銚子沖のキンメダイは、一年を通して良質の脂が乗っている。

キンメダイは、立縄(たてなわ)漁法と呼ばれる一本釣り漁法によって、1尾ずつ丁寧に釣り上げられる。港につくと、高精度で魚を傷つけることなく選別できる自動選別機にかけられ、その日の午前中には市場で入札され、高い鮮度を保ったまま出荷される。

「水温が低いほど潮の流れが早いんです。水温と潮の流れを見れば、魚の選び方はわかりますね」。そう教えてくれたのは、啓太さんの父であり、この道36年のカネ八商店・代表の宮崎都央さんだ。厳しく、確かな目利きでうまい魚を見極めてきた。

魚は海水の温度が低いほど脂が乗るといわれていて、銚子沖はキンメダイ生息の北限に位置しているそうだ。都央さんは「他の産地のものと比較しても、銚子で獲れるキンメダイは脂のりが抜群ですよ」と胸を張る。

自社加工への挑戦

実は、カネ八商店ではこれまで加工業は一切行っていなかったという。

「市場相手の仕事だったので、消費者の皆さんに直接魚を届けることはありませんでした。でも、現代はネットが普及していて、ECサイトを活用すれば全国のお客様に直接商品を届けることができます。私たちの新たな挑戦として、今回、初めて自社で加工商品を作ってみることにしました」と啓太さん。

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そこで「銚子港で通年水揚げがある魚を使いたい」と、キンメダイに目をつけた。

市場では1kgのキンメダイは特大と呼ばれ、900〜800gまでが大きんめ、それ以下の重さのものというように、1匹あたりの重さで単価が決まる。同社では、お客さんが買い求めやすい価格にしたいとの思いから、500gのキンメダイを使って今回の商品を開発した。

有限会社カネ八商店

全国の市場に向けて出荷しているキンメダイは、基本的に700g以上のものが多い。一方で、実際の水揚げは500〜600gのキンメダイが中心で、価格変動も少ない。啓太さんは「安定的に商品を提供できるのでは」とこの大きさに目をつけたのだ。

瞬間冷凍機の導入で販路拡大へ 

啓太さんは、事務所の引き出しから屋号の入った札を取り出し、見せてくれた。

「キンメダイやタイ、ヒラメなどを扱う銚子第3卸売場は朝7時30分からはじまります。銚子市場ではオークション形式で、この札に欲しい魚の入ったカゴの番号と、1kgあたりの単価を書いて入札します。開札して一番高かった人が落とせる仕組みです。入札は一発勝負。入札前は仲買人同士の駆け引きがあり、経験がものをいう場面でもありますね」

有限会社カネ八商店

キンメダイは、鮮度が命。すぐに冷やさないと色が飛んでしまうため、仕入れたらすぐに氷で冷やし工場まで運搬する。

長年培ってきた卸業でのこだわりから、加工をする上でも鮮度は譲れない。そこで導入したのが瞬間冷凍機「エックス・フリーザー」だ。食品全体の細胞膜を破壊することなく、包み込むように瞬時に冷凍するため鮮度や風味が変わらないのが特徴で、解凍後もドリップが出にくく旨味成分を流失しにくいのだという。
試しに、刺身を通常の冷凍機とエックス・フリーザーで冷凍して比較したところ、その場にいた全員がエックスフリーザーを指さして「こちらの方がおいしい!」と意見が一致した。本場のプロが言うのだから、間違いない。

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エックス・フリーザーを導入することで、啓太さんはさらに販路が広がると見込んでいる。

「この冷凍技術があれば、鮮度を保ったまま銚子のキンメダイを届けることができます。今後はEC販売やふるさと納税の出品などを通して、全国のお客さまに獲れたての味を楽しんでもらいたいです」

目の前の海で獲れたキンメダイをその日のうちにさばき、瞬間冷凍する。鮮度そのままに、銚子の空気までも閉じ込めた商品の開発に期待がふくらんだ。

文・写真:寺田さおり(写真6枚目 事業者提供)

後編へつづく