急速液体冷凍の導入で鮮度をキープ
今回、新たに開発したヒラメの3種盛り「ヒラメざんまい」は、刺身、漬け、昆布締め、3つの味を楽しめる豪華なセットだ。
今回、なぜ開発するに至ったのだろうか。
「伊勢えびは禁漁期があって1年中出せるわけじゃない。はまぐりも獲れる量が決まっています。その点ヒラメは1年中水揚げできるから、時期を問わず提供できます。飯岡沖で獲れるヒラメは大判で厚みがあって、すごく状態がいいから冷凍にしてもうまいんですよ」
お客さんから「刺身が食べたい!」と要望が届いたことも、後押しとなったそうだ。
しょう油が染み込んだ「漬けヒラメ」は、甘みがありご飯が進む逸品。遠藤さんもお気に入りの商品で、「お茶漬けにしてもうまい!」と教えてくれた。
捌いたヒラメをしょう油やみりんなどの調味料につけて真空パックしたら、急速液体冷凍機「凍眠」の出番だ。マイナス30度のアルコールでスピード凍結させるため、ドリップ(旨味成分)が滲み出ず、鮮度や風味をキープできる。
「凍結スピードが遅いと品質がガクッと落ちるんですよ。凍眠を使うと5分もかからずに凍結できるから、鮮度が落ちない。漁師の俺が食べても、おいしいなって思いますね」
苦労して開発した自信作「ヒラメの昆布締め」
今回、「開発が大変だった」と話すのは、ヒラメの昆布締めだ。北海道産の昆布を大胆に使った昆布締めは、知り合いの飲食店関係者から「うまい」と太鼓判を押された自信の品。開発にはもっとも時間を要したと言う。
「昆布の上にヒラメをのせるでしょ。すると昆布がヒラメの水分を吸って、ヒラメがぱさついちゃうんですよ。だから水を入れるんですけど、適量の見極めがなかなか難しくてね。1ccずつ刻みながら試作して、やっと適量を見つけました」
昆布締めの真空パックは、冷凍する前に冷蔵庫で一晩寝かせる。こうすることで昆布の旨味が、ヒラメにより染み込むそうだ。
「昆布締めは、しょう油などをつけずにそのまま食べてほしい。昆布で締めているからねっとりしてて、風味が口の中にブワッと広がります」
解凍方法は、流水解凍で約5分。解凍時間が長いとドリップ(旨味成分)が滲み出てしまうため、冷蔵解凍や常温解凍はおすすめしていない。
手間をかけない気軽さがありながら、食卓を豪華に彩ってくれるのが「ヒラメざんまい」の魅力だ。
自分が獲った魚を、自分で流通させたい
「自分が獲った魚を、自分で流通させたい」
遠藤さんが、20代の頃から大切にあたためていた夢だ。「漁師と加工業の両立は決して楽な道ではないけどね」と苦笑いする遠藤さんだが、着実に夢を実現しつつある。
「漁師は、獲った魚を市場に卸すのが基本。自分で値段がつけられないし、漁獲量が多いほど買い叩かれる。俺はずっと、頑張れば頑張るほど大変な思いをする仕組みに疑問をもっていて。いつか自分で値段がつけられるようになろうって考えていたんです」
「それに」と遠藤さんは続けた。
「未来のことをよく考えます。水揚げ量が少なくてもある程度の収入を確保できる仕組みを作らないと、自分の後に続く人たちが漁師をやりたくなくなる。大変だし儲からない、だと魅力がないでしょう。もちろん収入がすべてじゃないけれど、魚に付加価値を付けることで、道を切り拓いていきたいと考えています」
周りから「漁師なんだから」と反対されても、「鮮魚のオンライン販売」「冷凍加工」など、事業の多角化にチャレンジしてきた遠藤さん。漁業の未来を見据える不動丸の挑戦は、これからも続く。
写真・文 白石果林