2024.01.3
千葉県2024.01.03
まるで獲れたて!漁師が伝えたい
「冷凍の刺身でも鮮度抜群」な理由〈前編〉
不動丸

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不動丸

「『冷凍の刺身なんて』と言う人は多いんです。俺も最初はそう思ってたしね。でも冷凍の伊勢えびの刺身を食べたとき驚きました。『嘘でしょ、こんなに甘いの』って」

笑いながらそう話すのは、「不動丸」の遠藤勝信さんだ。遠藤さんは、千葉県九十九里浜の沿岸北部に位置する旭市で、漁師をしながら加工業も営んでいる。不動丸が水揚げするのは、伊勢えび、ハマグリ、ヒラメ、ワタリガニだ。

鮮度にこだわる遠藤さんは、長らく「冷凍加工」を敬遠していたが、2023年、急速液体冷凍技術を用いた「リキッド凍結シリーズ」を販売開始。今では、「冷凍の刺身の方が美味しい!」と言う客も少なくない。

今回新たに開発したのは、冷凍したヒラメのお刺身、漬け、昆布締めの3種がセットになった「ヒラメざんまい」だ。

「冷凍の刺身の鮮度って、どうなの?」。だれもが疑問に思うだろう。しかし、不動丸の商品はまったく臭みがなく、食感も損なわれていない。鮮度を保つためにどんな工夫をしているのか、なぜ敬遠していた冷凍加工に踏み出したのか、たっぷりと語ってもらった。

冷凍加工に踏み切ったワケ

不動丸
不動丸

漁師である父親の背中を見て育った遠藤さん。高校卒業後すぐに漁師になり、32年が経つ。父親の跡を継ぎ、不動丸の2代目になって12年。

父親がガンでこの世を去ったのは、2020年4月のことだった。ケンカしながらも二人三脚でやってきた父親がいなくなり、遠藤さんは1カ月ほど漁に出られなくなったという。

「気力が湧かなくてね。でもいつまでも休んではいられないと、気持ちにむりやり整理をつけて仕事を始めました。その年の8月、敬遠していた冷凍加工に踏み切ろうと決意する出来事があったんです」

その頃、新型コロナウイルスの影響で、主力商品である伊勢えびの需要がガクッと落ちていた。どの漁船も「これじゃ赤字だ」と嘆いたそうだ。しかし不動丸は、2019年に鮮魚のオンライン販売をスタートしていたことが功を奏した。

不動丸

「家にいながら新鮮な海の幸が食べられるってテレビに取材してもらえて、びっくりするほど注文が入ったんです」

放送が終わると、ひっきりなしに携帯電話が鳴り響いた。3時間で300件を超える注文。産直サイトの運営からは「こんな反響、ひさびさです」と言われるほどだった。

想像以上の反響に遠藤さんは喜んだが、注文通りに伊勢えびを水揚げできるとは限らない。「お客さんに迷惑をかけるくらいなら……」と、注文の受付を一旦ストップせざるを得なかった。

「伊勢えびの需要は、お正月に向けての12月にかけて高まります。せっかく多くの人に知ってもらえたし、どうやったら需要と供給がマッチするだろうと考えたとき、やっぱり冷凍しかないなって」

遠藤さんはあれだけ敬遠していた水産加工に踏み出すことを決めた。そして2022年5月末、水産加工場を設立した。

鮮度をキープするための「手当て」

解凍した伊勢えびやヒラメの刺身をいただくと、臭みのなさに驚いた。ヒラメは身が締まっていて、噛むほどに旨味が広がる。

どうやってこれほどの鮮度を保っているのだろうか。話を聞いてみると、ヒラメ一枚一枚に「手当て」と呼ばれる丁寧な処理をしていることがわかった。

不動丸

「うちでは水揚げした魚をすぐに捌かずに、生簀で3〜5日ほど生かすんです。これは『活かし込み』と言って、ヒラメのストレスをなくす作業。これをすると、ヒラメの表面に光沢が出て、つるんと綺麗になるんですよ」

「活かし込み」をすると、漁獲時に出る疲労物質が減少し、元の健康な状態に戻る。その後、悩を破壊して、疲労物質の放出を止める「悩殺」をすることで、旨味を損なわないことはもちろん、見た目も綺麗になるそうだ。

不動丸
生簀で「活かし込み」しているヒラメ

悩殺のあと、「神経締め」と呼ばれる作業に移る。神経締めは、ワイヤーを魚の頭から刺し、背骨近くの神経を破壊する技術だ。死後硬直を遅らせて、獲れたてと変わらない食感をキープする。遠藤さん曰く、「神経締めをするかしないかで、身の透明度や食感がまったく違う」という。

これらの処理が終わって初めて、魚を捌く。魚一枚にかける手間ひまが、鮮度の高さを実現しているのだ。

不動丸

不動丸の「リキッド凍結シリーズ」は、飲食店関係者からも評判を呼んでいる。

「東北からホテルの総料理長が来て、『いろいろ食べたけど、ここの冷凍の刺身がいちばんおいしいよ』と仕入れてくれてね。鮮魚は使い切れなきゃ捨てることになるけど、冷凍だと保存できるから好まれるんです。俺はずっと、『冷凍なんて』と思っていました。でも味がおいしいのはもちろん、冷凍加工はフードロス対策にもつながると知って、改めて自信を持って続けていこうと思うようになったんです」

写真・文 白石果林

後編へつづく