日本三景のひとつ、大小260の島々が浮かぶ美しい松島湾。ここで養殖したワカメを漁師みずからが加工し、販売まで行うのが「株式会社光洋水産」だ。
「よく、漁師っぽくないですねと驚かれるんです(笑)」そう笑顔で迎え入れてくれたのは、代表の櫻井涼平さん。代々漁師の家系で育ち、2016年に28歳という若さで会社を立ち上げた。
今回、光洋水産が開発したのが、ワカメのイメージを一新する食感を楽しませてくれる「旨とろ剣山わかめ」だ。どのような商品なのだろう。船に乗せてもらい、ワカメを養殖する松島湾へと案内してもらった。
穏やかな松島湾が育むやわらかなワカメ
宮城県利府町にある小さな「須賀漁港」。そのすぐ目の前に会社を構えるのが、新鮮な海藻を食卓へ届ける「株式会社光洋水産」だ。
須賀漁港から船に乗り、5分ほど進むと松島湾に出る。観光遊覧船が島巡りで往来する松島湾の一角には、海一面にワカメの養殖場が広がっていた。
松島湾は、湾口に大小260の島々が並び、外海とへだてられているため、波が小さく穏やかなのが特徴だ。水深が浅いので外気温に左右されやすく、冬の訪れとともに水温が一気に下がる。そのため、冷たい海で育つワカメを全国で最も早く収穫できるのだそうだ。通常、ワカメの収穫は3月頃からはじまるが、松島湾では12月初旬から早採りができるのだとか。
穏やかな海で育ったワカメは、肉薄で葉のみならず茎までもやわらかい。「早採りワカメは、しゃぶしゃぶで食べるとおいしいんですよ」と話す櫻井さんの顔は誇らしげだ。
剣山に叩きつけて作る「剣山わかめ」
この柔らかなワカメの茎部分を使って作るのが、今回開発した商品「旨とろ剣山わかめ」だ。
剣山と名がつくとおり、剣山わかめは針状の突起が並んだ道具を使ってつくられる。剣山に茎ワカメを何度も叩きつけて、機械よりも繊細に細かく裂くのだ。手作業でおこなうため、危険だし、もちろん手間がかかる。そのため、剣山わかめは製造できる会社が限られていて、世に多くは出回らない、めずらしい商品なのだそうだ。
「はじめて口にしたとき、独特な食感とおいしさにビックリして、いつか商品化したいと考えていたんです。宮城県のなかでもこれを製造できる会社は少ないのですが、幸い昔から知り合いの会社さんが製造していたんです。そこで『うちの茎ワカメを使ってつくってほしい』とお願いしたところ、快く引き受けてもらえ、今回の商品が実現しました」
実際にいただいてみると、剣山わかめはワカメともめかぶとも違う、コリコリとした食感でほどよいとろみがある。喉ごしがいいので、ついスルスルと口に運んでしまう逸品だ。
塩、しょう油、スープの3種類の味
この希少な剣山わかめを家庭で手軽に食べてもらおうと、櫻井さんは3種類の食べ方を提案する。
まずは塩味。「素材の味で勝負したかったので、極限までシンプルに仕上げました」と言うとおり、味つけに使用するのは「六助の塩」のみ。昆布と椎茸だしの旨味が凝縮された六助の塩がよく浸みこんで、あっさりしているのに噛むほどに味わい深い。おつまみとして、まずはそのまま食べてほしい。
次に、しょう油味。こちらは櫻井さんの母、礼子さんが開発を担当している。しょう油、みりん、酒、ダシ、生姜を合わせた調味液に半日ほど漬け込んで作られ、甘すぎず、あっさりとした味つけなので、ワカメ本来のおいしさとコリコリとした食感が味わえる。ご飯のお供や蕎麦のトッピングとしてなど、さまざまなバリエーションの食べ方が楽しめそうだ。
最後は、ゴマが香る中華風スープ。鍋に200ccのお湯を沸かし、商品を入れて温めてれば簡単に中華風スープが完成する。ゴマと磯の香りがふんわりとただよい、ワカメのとろみがスープに絡んでじんわりと体を温めてくれる。
「スープは特に好評で、今後は味のバリエーションを増やしていきたいですね」と櫻井さん。
剣山わかめは、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルが豊富で、食物繊維やビタミンを含み、健康にも美容にもよい。手軽に食事に取り入れやすいところも魅力だ。櫻井さんは、だからこそ「ワカメの魅力をもっと多くの人へ届けたい」と力を込めて話す。
文・奥村サヤ 写真・株式会社ル・プロジェ