2023.11.15
宮城県2023.11.15
石巻市から “ほや” 好きを増やしていく!
「ほや酔明」に次ぐ一手は家庭へ 〈前編〉
水月堂物産株式会社

  • 宮城県
  • 水月堂物産株式会社

水月堂物産

まるでキャラメルのパッケージのような箱に、大きく「ほや」の文字が目を引く。発売から40年以上にわたり、東北新幹線の名物として愛され続ける「ほや酔明」だ。

製造販売元は、宮城県石巻市に本社を置く水月堂物産株式会社。1962年に創業した水産加工会社だ。長年、酒の肴としてほやを売り出してきた同社の新たな挑戦は、子どもにもおいしく食べてもらえる家庭向け商品の開発だという。

なぜ「酒飲み」から「家庭」へと目を向けることになったのか。現在開発が進められている「自宅でほや簡単調理シリーズ」の詳細とあわせ、代表取締役の阿部壮達さんに話を聞いた。

東北新幹線の開通と共に歩んできた「ほや酔明」

水月堂物産
ファンが多く、テレビで紹介されることも多い「ほや酔明」

明治時代から漁業のまちとして栄えてきた石巻市。同社は地域に根ざした水産加工会社として、サンマや生牡蠣、小女子など地元の食材にこだわった事業を展開してきた。とくにほやに対するこだわりは強く、数ある商品の中でも、ほや酔明は一番の主力商品だ。

ほや酔明はほやの風味を生かした乾燥珍味で、「夜が明けるまで酔えるおつまみでありたい」という想いで名づけられたそうだ。1982年に東北新幹線の開通とともに誕生して以来、人気商品として車内で販売され続けている。お酒のおつまみとして、ほやの収穫量日本一を誇る宮城県のおみやげ品として、ほや好き、お酒好きの間で長く愛され続ける逸品だ。

水月堂物産
細くカットされており、ぱくぱくと食べやすい

現在では、駅や高速道路のサービスエリアなどにもマーケットを拡大している。水月堂物産では、おみやげ事業をメインとし順調に売上を伸ばしてきたが、2020年に大きな転機が訪れた。

コロナ禍を機に、商品開発を推進

水月堂物産
おみやげが売れないなら、別の方法でほやを届けなければ」と阿部さん

2020年4月、第1回目の緊急事態宣言が発令された。これを皮切りに日本全体がコロナ禍へと突入する。「ステイホーム」と呼びかけられ、駅も街も閑散とするなか、おみやげ事業は大打撃を受けた。

しかし「ピンチをチャンスに」と考えた阿部さんは、これまで時間が取れず着手できていなかった商品開発を一気に推し進めることにした。その結果、「ほや酔明」と「ほや酔明ピリ辛味」の2種類だった酔明シリーズは現在11種類まで増え、「ほたて酔明」「かき酔明」など、バリエーションが広がった。

水月堂物産
圧倒されるラインナップ

阿部さんの考えは、既存商品の拡充だけに留まらない。より一歩進んだ事業展開として、「おみやげ商品以外にも、ほやのマーケットを開拓しなければ」と考えた。今後また、同様のことが起こるかもしれないと危惧したためだ。

そこで候補として挙がったのが、惣菜と軽食のマーケット。いずれも手軽に食べられて、家庭にも届く。阿部さんは、人が外出しておみやげを買わなくても、ほやを食べてもらえる手段を模索しはじめた。

「自宅でほや簡単調理シリーズ」を開発!

水月堂物産
ほやの刺し身。ほやといえばこのイメージでは?

ほやといえば刺し身というイメージを持つ人は多いだろう。しかし、生のほやを自宅で捌くのは、そう簡単なことではない。キッチンは汚れるし、においも出る。幼少期からほやに慣れ親しんでいる阿部さんでさえ、「スーパーでほやを買ってきて、自宅で調理するのは大変です」と言うほどだ。

家庭にほやを届けるには、何より簡便でなければならない。ほやをよく知らない人でも「食べてみようかな」と思ってもらえるよう、刺し身の”先”を行く必要がある。

そう考えた阿部さんは、同社の強みである加工力を生かし、「自宅でほや簡単調理シリーズ」を考案。一口大にカットしたほやを味つけし、冷凍の状態で販売する。

食べるときは解凍し、湯煎する、電子レンジで温めるなどの工程を踏むだけ。面倒な下処理や調理はすべて済んでいるので、家庭の食卓に取り入れやすいのが特徴だ。

お酒も白米も進むほや

水月堂物産

ほやは甘味、塩味、苦味、酸味、うま味の5つの味を楽しめる、めずらしい食材だ。だからこそさまざまな食材と合わせやすく、味つけの可能性も無限大なのだ。

「自宅でほや簡単調理シリーズ」では現在、チーズ味、キムチ味、テリヤキソース味の3種類を開発している。

この3種類の味で開発を始めた理由を聞いた。まずほやと乳製品の相性が良いことから、チーズ味が採用された。次に、韓国でほやとコチュジャンをあわせて食べる習慣があることからキムチ味を採用。唐辛子にはうま味成分が豊富に含まれているため、この点もほやと相性が良い。3つ目のテリヤキソース味は、イベントで「ほやの串焼き」を販売し人気だったことから着想を得た。これはほやを串に刺して焼き、てりやき味のタレを塗って焼いたもの。イベントなどの特別な時だけでなく、いつでも気軽に自宅で食べてもらいたいという想いから商品化を決めた。

てりやき味のほやと聞いても、ピンとこない人も多いのではないだろうか。かく言う筆者もその1人だ。そこで阿部さんに、「食卓にほやが並ぶ」イメージを聞いてみた。

「定食が目の前にあると想像してください。ほかほかのご飯と味噌汁、皿には千切りにされたキャベツがこんもりと乗っている。メインのおかずは豚の生姜焼きだったり、ホルモン焼きだったりするかもしれません。『自宅でほや簡単調理シリーズ』は、この生姜焼きやホルモン焼きの場所に陣取ります。ほやって、白米も進むんですよ」

白米も進むと聞いて、俄然期待感が増してきた。現在は、全体のバランスを見ながら味つけを調整中だ。

文・岩崎尚美 写真・株式会社ル・プロジェ

後編へつづく