2023.02.27
福島県2023.2.27
大切な人と食べたい。大切な人に贈りたい。
~特別な日をつくるプレミアムなまぐろ~ vol.02
山菱水産株式会社

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おいしさを家庭に届けるための絶対失敗しない解凍方法

これほどこだわりで、最高品質のマグロが届くのだから、あとは何の心配もなく美味しくいただけるのだろうと思いきや「解凍に失敗すると、せっかくのマグロが台無しになってしまうんですよ」と坂本さん。
実は冷凍マグロには、解凍の難しさという課題がついてまわっていたのです。

その原因は主に3つで①切りくずからの雑菌の繁殖、②解凍時に浸透圧の違いでおこる旨みを含んだドリップの大量流出、③真空パックによる酸欠で赤黒く変色する(本当は赤く発色した方が美味しそうに見えるのが、黒ずんでしまう)ことで対策として「温塩水解凍※1」が推奨されています。「家庭でやるには、なかなか面倒なんですよね」以前、一般の方向けに解凍教室を行った経験から「上手にできる人、上手にできない人がいるんです。しかもマグロって決して安くはないじゃないですか。せっかく特別な日のために高価なものを買い、一生懸命やって失敗してしまったら、二度と買いたいと思わなくなってしまいますよね」と消費者心理をよくご存知です。
私も不器用ながら試したことがあり「マグロがもったいない!」とそれっきりでしたので、坂本さんのお言葉には激しく共感です。

「逆を言えば、誰にでもできる解凍方法があれば解決すると思ったのです」低温加工で解凍前の下処理を済ませ急速冷凍・真空パックする技術を考案しました。
「未開封のパックのまま、流水や貯め水で15分程度解凍するだけで、誰にでもおいしく召し上がれます」これにより、高級鮨店のマグロを自宅で本当に美味しい状態で楽しめる商品が実現したのです。

※1  温塩水解凍:36~38℃の塩水(海水と同じ塩分3%)に5分ほど浸けて表面だけ解凍し、水分をふきとった後、冷蔵庫で3~4時間寝かせて身を締める方法。

店頭で買い物するときのような“期待感”を一緒に

「店頭であれば“あっちとこっちの柵、どちらにしよう”と選べますが、通販の場合には、届くのは1つ。だからその選ぶ楽しみを補い、開けてみるまではわからない不安を払拭できるくらいの、“買って良かった”と思える何かが欲しいと思いました」今回、パッケージや商品同梱のリーフレットにも力を入れました。

海とマグロに“山菱”の力強い文字が印象的なシンボルは、創業当初のものを復刻させました。原画は残っておらず、昔の資料からデータを起こすところからはじめる中で、担当したデザイナーからの「40年以上前とは思えない。古さを感じさせないデザイン」との高い評価が自信にも繋がりました。
掲載するテキストやイメージの絵コンテは広報の村山さんが担当。普段から実際に商品を使ってもらっている地元の高級料亭にも協力をいただきました。

「1つ目がサイトを見てまず“いいな”と思って注文するとき、次が到着してから蓋を開けるときで、その瞬間“ワーッ!”と感動して貰えるような、そんな2段階構成の商品にしたいと考えています」坂本さんの頭の中では、緻密なまでに先々が計算されていました。

仕上がり具合を尋ねると「当初の想定を遥かに超える完成度」と坂本さんがとても嬉しそうに話してくれました。これらの一連の商品開発を実質2ヶ月に満たない極短期間で仕上げたというので驚きます。
さらに「うちは部署に関わらず商品開発に関われるんです」「現場の加工スタッフに限らず、社員は営業職も含め、皆がマグロを捌けますよ」こともなげにいう坂本さん。百貨店バイヤーの商談来社時に、坂本さんが目の前でマグロのにぎりを振る舞い大絶賛されたことは耳にしていましたが、まさか全員がパソコンと包丁の両刀使いとは…。
明確な意志を持って働くスペシャリストチームの、質の高い仕事ぶりを聞きながら、圧倒されるばかりでした。

年末から商品を発売開始し、年末需要で予想していたよりも多くの注文が入る中、なんと全て坂本さんが商品の加工から発送までを手掛けていました。
「大量に同じものを作るのは得意な施設なのですが、少量ずつというのは今までやったことがないのでオペレーションも含め、良い経験になりました」と次に向けて既に頭はフル回転のようです。

未来へ向けて、一石を投じる

福島県の地方都市にありながら、首都圏の大企業に引けを取らない並外れた組織力、スピード感で山菱水産の勢いは止まりません。2年後に新工場竣工も控えています。

「昔ながらの“一蓮托生”に一石を投じたいと思っているんです」と坂本さん。昨今、漁獲量の激減のニュースは珍しくありません。一次産業では「自然任せの産業だから仕方ない」という風潮は根強く、漁なないと漁師、加工業者、関連する業者へも皺寄せがいく、この負の連鎖による共倒れ、そして地域の衰退を危惧しています。
今でこそ、立派な工場、新社屋を構える地元で目立つ存在ですが、過去には相当苦しい経験がありました。立ち上がるために、時間をかけて一次生産者との協業、輸出入・保管・加工・流通・小売店との協業を一社で完結する仕組みを構築してきました。その結果、目線の先に常に「お客様」が見えるようになったのです。食べてくださるお客様のことを考えたら、言い訳はできません。
良き風習は残し、新しい風を吹き込ませることで、本当の意味での持続可能な企業、地域、そして世界と戦える強い水産業を目指しているのです。

取材を経て

日本人にとって、マグロはやっぱりハレの日、特別な時に食べたいもの。
しかし、いつもていねいな口調の坂本さんの「本当においしいマグロは“めちゃくちゃおいしい”」という言葉が耳から離れず、“何でもない日”にマグロを注文してしまいました。

ここで既に、策士・坂本さんの戦略にハマった感じがします。

後日、早速マグロの柵がパンフレットと共に届きました。箱を開けた瞬間から極上品にふさわしい上質感が伝わってきます。そうっと手に取り、リーフレットを開くと、飛び込んでくる鮮やかで美味しそうな写真!しばらく眺めているだけで、満足してしまうくらい、なんとも贅沢な気持ちになりました。自分で注文してこうなので、頂きものになったときの喜びは計り知れません。日の目を見ずに終わるリーフレットも世に数多ある中で、これは間違いなく「商品価値を上げる」名脇役です。

繊細さと美しさ。大トロ、中トロ、赤身の3種を並べると、もはや芸術品。ていねいに五感でいただく「まぐろ」なのです。山菱水産が「やさしい感じ」を伝えたいという理由で、平仮名で「まぐろ」と表現する理由が実物を手にして、すとんと腑に落ちました。

間違いなく届いたその日がまず、特別な日になり、食べた日が特別な思い出の日になりました。
「このおいしさを多くの人と共有したいというのが原点です」坂本さんの言葉が再び思い出されました。

だから、大切な人と食べたいし、大切な人に贈りたい。

再び命を吹き込まれたシンボルが山菱水産の新しい船出を見守るかのようです。


写真1枚目,2枚目:事業者提供
写真3枚目,4枚目:石山静香
文:石山静香