『めひかりの唐揚げ』を商品化した理由
今回、海神では干物ではなく「めひかりの“唐揚げ”」を商品化しました。常磐沖でよく獲れ、いわきを代表する魚に認定されているめひかりは、近年少しずつ知名度が上がり、首都圏の居酒屋でも取り扱われるようになっていました。しかし、コロナでその機会が減ってしまいます。
「美味しいんだけど、鱗とりが大変」と料理人泣かせのめひかり。地元では昔から唐揚げで食べるのが一般的。
「食べてもらうと美味しさはすぐにわかる」と真木さんも太鼓判を押します。
いわき近海は、親潮と黒潮がぶつかる“潮目”があります。潮目には、魚の餌になるプランクトンが豊富なので、ここで獲れるめひかりは身がぷっくりしていて、脂がのります。さらに、夜中出航し午前中には漁を終えて戻る“日戻り”という漁法で獲られ、その日のうちに加工できるために鮮度も抜群です。
海神の“めひかりの唐揚げ”は、この脂の乗った獲れたてのめひかりを、メヒカリの旨味を損なわないよう、澱粉と塩のみで粉づけをして仕上げIQF凍結 ※1 で仕上げています。解凍不要で、使いたい時に使いたい量を、そのまま揚げるだけで美味しい唐揚げができあがります。
※1 IQF凍結 Individual Quick Frozen
食材を個別で凍結できるバラ凍結のため、細胞の破壊を抑えられて、鮮度や旨味が逃げるのを避けられる。またバラバラの状態のため、使いたいときに使いたい分量を使えるというメリットもある。
唐揚げは粉をつけるだけ…といえばそれまでですが、生のお魚を唐揚げにするのは、水気を切るところから始まり、それぞれがくつからないように、ムラなくに粉をつけるのは案外手間がかかるもの。それが、油に入れればOKというのは、とても便利です!
まずは、いろんな人に食べる機会、チャンスを作りたい、と策士の真木さん。「スーパーだと1回売れないと売り場から消えちゃいますし、陳列している時間が短いので、冷蔵で3日経てば廃棄扱いになる」ネット販売だからこそ成立する商品として開発しており、リピーター獲得も視野に入れています。
さらに今回の商品は、設立当初から構想していた “地域の受け皿、地域社会の維持”という目的を担う役割もありました。
自社工場は干物専門。そのため、今回の商品の製造は地元のカネキュウ鈴木さんに委託をしています。この連携こそ、地域の基盤強化に不可欠。バランスをとりながら事業展開をしていきたいと考えています。
海神では、設立当初から商品ではなく“会社”を売るという考えのもと、パッケージには会社のロゴのシールだけを貼ってきました。そういった事業戦略が功を奏し「海神が出す商品なら間違いない」と、リピーターに、会社のファンになってくれるお客様がたくさんいます。今回の商品化は、事業戦略によってブランディングが確立し、マーケットを熟知しているというベースがあったからこそ実現したのです。
干物技術と“地魚”
「僕らの扱うメインは干物です。元々干物は保存食ですが、冷蔵庫もある現代において、保存するだけならば干物にする必要はないんです」改めて言われてみれば、確かに…。
ではなぜ、今なお干物が求められるかというと、やはり“美味しさ”でした。
「干物にすることで、魚の旨味、アミノ酸が増加して旨味成分も増えるんです。中の水分を抜けば、どんどんアミノ酸が増えてくるので、何でも美味しくできる」
魚種毎にそれぞれに合う“干物”に仕上げる、目利きの力、そこにひと手間かけて旨味を凝縮したお魚が、真木さんにとっての自慢の“地魚”なのだと思いました。
“国産” の加工技術で世界に挑む
「国産だけが良いとも限らないんです。海外の魚介でも目利きがきちんと選べば、美味しく安全に食べられる。日本の加工技術は干物も含めて最高水準ですから」と真木さん。
魚種によっては国産では獲れないものもあります。近年の気候変動や不漁による資源不足、国内の漁業の高齢化など日本の水産業を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。規模も扱う商品も多種多様です。
さらに、日本の高齢化や人口減少に伴い、外国人労働者や研修生等の受け入れの必要性など、働く人も多様化しています。
そんな中で、はっきり言えることは、これまでの日本の魚食文化が培ってきた加工技術や調理法は唯一無二のものであること。それらを大切に受け継ぎ、発信することは“国産”“地魚”の新しい定義を伴った新たな文化を生み出すかもしれません。
干物には、そんな未来への可能性が詰まっていることを改めて感じました。
干物文化を世界へ
今後、真木さんがもう一つ取り組もうとしている新たな販売チャネルは、海外展開です。
「ただ単純に焼き魚ベースで提案しても売れないと思う。やっぱり日本食と何かをうまく掛け合わせなくちゃいけないと。干物という文化を売ってこうと。
チャンスがあるのであれば海外に出してみたい。もちろん、国内からの需要もありますので、国内をやらないで海外に行くことはないですし、足元ちゃんと固めた上で一歩ずつ行くっていう感じです」
干物文化を世界に発信していきたい。着実に歩みを進める若き経営者・真木さんは、常に未来を見つめています。
海神のロゴが、世界の干物のトップブランドになる日を予感せずにはいられない。そんな未来を描ける会社が、福島にありました。
文・写真:石山静香